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目隠しで目元を見せないまま、五条先生は私に笑いかけた。その笑顔はどうも胡散臭い。例えるなら、街角でいつか見たおもちゃのピエロのような笑い方だ。
「Aも一級になりたい?」
五条先生の言葉に、私の体は反応した。
「無理だよ。」
しかし先生は私が何かを言う前に、冷たくそう言った。
「だってAは交流会でもなにもしてなかったし、例の受肉体の任務でもたいして活躍したわけでもないんでしょう?」
僕も教師として活動報告書には目を通してるからね、それくらいは把握してるよと五条先生は言った。
「それとも、あの場でなにかした?あるなら言ってみなよ。ものによっては、それ相応の評価をしてあげるからさ。」
そういって笑う先生を見て、私は悟った。
ああ、なんだ。先生の目的はそれだったのか、と。
口ぶりから察するに、先生方はこの前の任務で残った呪霊の遺体を調べたんだろう。そこで特級呪物の受肉体であるとわかったくらいだ。当然男の呪霊の方の死体も確認し、胸元に開けられた穴と首元の切断痕に気づいたんだろう。
どちらの傷も、虎杖くんや野薔薇が付けたような傷じゃない。かといって、私がつけた傷だとも断定できない。だからここで野薔薇を引き合いに出して、私から決定打を引き出そうとした。
安い挑発だ。
「いいえ。」
私は静かに、だがはっきりと答えた。
「いいえ。ありませんよ。五条先生。」
私は先生を見上げた。190センチメートル以上あると言う先生の頭は、屈めてくれないととても遠い。そこにある隠された蒼い目に向けて私は目を細めた。
「私は四級、底辺の呪術師、ですよ?あそこではただ、見ているだけで、精一杯でした。」
先生は私に過度な期待を抱いているようで申し訳ないですけれども、と私は続け様に言った。
五条先生は笑みを消し、薄く口を開けながら私を見ていた。その目隠しさえなければあなたの目が見られたのに。残念だ。
「……話は終わりで、いい、ですか?先生。私、これから、用事があるので……失礼します。」
私はペコリと頭を下げ、先生の横を通り過ぎた。
先生は私を引き留めなかった。でも心のどこかできっと確信しているだろう。私があの呪霊の遺体に傷を残した犯人だと。
それでいい。私は拳を握りしめ足早に廊下を進みながら自分に言い聞かせた。
せいぜい警戒してください。私があなたに牙を向けぬようにと。
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しょーどくえき - わ!すっごくおもしろいです!続きがとても楽しみです!頑張ってくださいね! (2021年6月20日 16時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
猫かぶり - 今は死滅回遊ですよ!!!続きがとても楽しみです!!! (2021年5月21日 20時) (レス) id: 94bc23990d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 無気力なおバカさん» コメントありがとうございます!この展開は読者様には不評かも、なんて考えている折だったので、これからの展開が楽しみというお言葉に救われました!更新頑張ります。 (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 糸野さん» コメントありがとうございます!スリルのあるなんて素敵な言葉をいただけて嬉しいです。更新が滞っていますがこれからもドキドキさせられるよう頑張ります! (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです。これからの展開がすごく楽しみです。キャラ達の関係とかもすごく好みです。更新頑張って下さい! (2021年1月2日 3時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月28日 17時