夢と現実 ページ1
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「ゆーたーーー!」
「おぉ、なに?」
男にしては高すぎる声。
嫌でも視界に入ってしまうずば抜けたスタイル。
そして王子様の登場に黄色い歓声を響かせるクラスの女の子たち。
彼────永瀬廉は私にとって王子様でもなんでもない。
敵、と言った方が近いかもしれない。
それぐらい私は彼を毛嫌いしているし彼もきっと私を毛嫌いしている。
目が合えばどちらからともなく目を逸らしたまたま、本当にたまたまお互いに気づかずにいつのまにか至近距離にいた際はスススーと、水が流れるようにその場から立ち去る。
そんな、関係。
「化学の教科書忘れた!貸して!」
「俺ジンに貸した」
「は?えー、海人は?」
「…あ、俺の、紫耀に二限に貸したっきり返っきてない」
「なんでみんな貸してるん!?」
「んなこと言われても…イワゲンとこ行った?」
「持ってないって。…え、どうしよ」
彼らから黒板に視線を戻すと数学、明日確認テストという文字が昨日の日付と共に記されていた。
…あれ、今日確認テスト?
『あああ!』
「びっ、くりした…さてはAテスト勉強してないでしょ??」
『もちろん!無理!死ぬ!』
私の机に集う友達を退けて、というのは語弊があるがとにかく勉強をしようと教科書に向き合う。
…が、数学が大の苦手の私には暗号にしか見えない。
うーーん、諦めも肝心って言うよな、ちょっとぐらい…ちょっとだけならサボっても…なんて考えていたが名前を呼ばれたことにより一気に教室へと意識がもどる。
『…え?』
私の名前を呼んだのは紛れもなく永瀬でドア付近から感じる視線も永瀬だった。
数年間、いやそれ以上彼から名前を呼ばれたことがなかった私は全くと言っていいほど反応ができなかった。
「…、教科書貸して」
『え、あ、…っと、なんの?』
「…化学」
『あー、ちょっとまってて』
混乱しまくる頭をはたらかせてロッカーへ足を運び化学の教科書を引っ張り出す。
…一応問題集も持っていくか。使ったら困るし。
『はい』
「せんきゅ」
『…うん』
せんきゅ、と言いながら教科書で私の頭を2回ほど軽く叩いた永瀬。
…なんなんだろうか。
約10年間、全く関わりのなかった永瀬から急に、しかも、めちゃくちゃナチュラルに。
これは夢だろうか、現実だろうか。
久しぶりの感覚に驚きすぎて確認テストは0点だった。
まあ、点数に関してはいつも通りなんだけどね。
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さくさくぱんだ(プロフ) - 完結おめでとうございます!読み度涙が止まりませんでした…。続編是非読みたいです!!!! (2020年1月3日 5時) (レス) id: e39a486ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ふみか(プロフ) - 完結おめでとうございます。続編本当に待ってます!!!!!!一生のお願い!笑笑 (2019年12月15日 23時) (レス) id: cdb1cf462c (このIDを非表示/違反報告)
yimm(プロフ) - 完結おめでとうございます!afterstoryぜひ読みたいです☆ (2019年12月15日 15時) (レス) id: 72bd3737bf (このIDを非表示/違反報告)
寧々(プロフ) - 思わず一気読みしてしまったんですが、泣いてしまいました(;o;)是非after story読みたいです! (2019年12月15日 13時) (レス) id: dfd709edb9 (このIDを非表示/違反報告)
ちな - 完結おめでとうございます!最後キュンキュンもしたし、涙も出てきて………時間があるのなら、アフターストーリー読みたいです!楽しみにしています!! (2019年12月15日 9時) (レス) id: 047315094b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柚木 | 作成日時:2019年10月16日 22時