第28話 ページ30
耳に届くのはポケモンたちの鳴き声や観客達の声ではなく風の音。
肌に触れるのは己が乗っている相棒のヒヤリとした羽毛と叩きつけるような強さの向かい風。
視界に広がるのは広大なワイルドエリアとどこまでも続く青い空。
自分たちの前を飛ぶものは何も無い。
誰にも邪魔されなること無く、誰よりも早く飛んでいる。
今この瞬間に、ひどく高揚する。
速く飛んでいるポケモン達をそれを上回る速さで追い抜く瞬間、自分達を追い抜かんとするポケモン達に負けないように先頭を切っている今、上昇する時の自身達にかかる負荷、下降する時の胃がふわりと浮くような感覚、風が髪をさらっていく感覚……
全てに心が踊った。
この時間がずっと続いたらいいのにと、このレースを終わらせたくないと夢中で飛んでいた。
そして、あっという間にエンジンシティの門にたどり着いてしまった。
湧き上がる歓声や興奮するナレーター達の声に迎えられながら、アーマーガアはゆっくりと着地をする。
Aはほぅと息を吐き出し、張り詰めていた肩の力を抜いた。
未だに興奮しているのか、震える手でゴーグルを外し、そっとアーマーガアを撫でた。
『最高だったよ、ありがとうアーマーガア』
アーマーガアから降り、今度は上半身全体を使ってアーマーガアを撫でればそれはそれは嬉しそうに、そして誇らしげに大きく鳴いた。
さてゴールしたはいいもののこれからどうすればいいのかな、とAがスタッフに聞こうとする前に既に何人かがAの元に集まり誘導……というか連行される。
周りには観客の他に新聞記者やカメラマン、所謂マスコミが多くいて、こちらにカメラを向けては遠慮なくフラッシュを焚くので思わず眉をしかめた。アーマーガアも眩しそうにしている。
「フラッシュでの撮影は御遠慮くださーい!」
スタッフがそう呼びかけるも何人かは無視をしている。
この段階でAはマスコミにいいイメージどころか好感度がマイナスとなった。
別に写真とか、注目されるためにレースに出た訳じゃないのになと若干不機嫌になりながらスタッフについて行く道中、聞きなれた声がした。
ネズ「A!」
『!』
声の方へ顔を向ければネズがこちらに向かって大きく手を振っていた。彼の周りには多くの人がいるが、それでもネズを見つけられたし彼の声も届いた。
おめでとう!そう言って笑顔でサムズアップするネズに一気にご機嫌になったAは笑ってサムズアップをお返しした。
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作者名:黒梨 | 作成日時:2023年5月16日 22時