4話 ページ5
地縛霊なんて珍しいとたかを括っていると、肌に纏わりつくような生温い風が服に入り込んできて鳥肌が立つ。嫌な気を飛ばすように腕と足、背中を思いっきり叩いた。
『うわぁ、どこだろうこれ。近くか?近くなのか?やめてくれよ明日からたくさんの若人が来るんだからさ〜。……お、』
まだ存在自体は薄いが濃度の濃い邪気に嫌気がさしていると、その欠片のような呪霊がポツポツと生まれ出てきて奇声を発しだしたので、溢れ出るネガティブ言葉を抑えながらそれらを呪力で押しつぶす。
刹那、背後から大きな影が飛びかかるが咄嗟に避けて、そのまま地面についた手を軸にして蹴飛ばす。左手をバネのようにして起き上がったAはウエストポーチから短刀を取り出して、木に当たって動かないそれ目掛けて振りかぶった。
呪霊より切れやすいそれを裂くように切ると、裂け目から塵のように消えていって、代わりにコロリと石がひとつ地面に転がった。
さて、地縛霊の面倒くさいところはここからだ。
呪霊は祓って終わりだけれど、地縛霊は祓った後に、今後意地悪しないでねーという儀式をしなくてはならない。
細かくいうと、念仏みたいなのを唱えて依代にされている物に札を貼るのだ。たまに人が依代にされてしまうことがあるから、そういう時は体に札を貼ってもらう。
一定期間を過ぎれば札は溶けるように消えていく仕組みなので、日常生活に問題はない。
ただし、札を剥がしてしまうと呪霊となって出てきてしまうので、私のように儀式を行える者がしっかり見張っておく必要がある。
なぜ呪霊になってしまうのかは未だに解明できていないけど、下手をすれば特級になっちゃったなんてことも、過去にあるのだ。
特に長くもない儀式を終えて、依代にされていた石を巾着袋に入れる。それを短刀と一緒にウエストポーチに仕舞うと、急いで施設に戻った。
『(報告書、明日でいいや)』
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作者名:雨が好きな人 | 作成日時:2023年1月11日 18時