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『...何の用だ鼻たれ小僧』
「鼻たれじゃねぇ!こ、これは汗だっ...!」
夕日が沈む海岸を、浜辺にあった流木に腰を掛けて眺めるA。
いつもなら隣にウタがいて、この静かな場所にウタの歌声が聞こえてくるが、その景色はもう見れなくなった。今は少し寂し気な後ろ姿と、たばこの煙を吐き出すAの小さな息の音だけ。それも波の音にかき消されてしまう。
ルフィは、Aの横へどかっと座った。
鼻を強くすすって、目元を雑に服で擦ったからか鼻と目が赤くなっていた。
Aはルフィを見て、まだ吸い始めだったたばこの火を消す。
『...なんで私の方ばっか...シャンクスとか他のやつらのとこでも行け』
「知らねぇあいつらなんか。みんな何も話してくれねぇんだ絶対何かあったのに...!」
『私も何も話してねぇじゃねーか』
「そ、そうだけど...ここに来ればウタがいるかと思って」
もごもごとバツが悪そうにルフィが言う。
シャンクスに言われた“ウタが降りた”ということをまだ受け止めきれない。誰もルフィには事実を教えていない。だからルフィは、余計に悔しいのだろう。
『...ルフィ。これはお前の問題じゃないんだ。よそのことに口出しなんてやぼなことはやめろ』
「...で、でもっ」
『私たちのことは私たちがけじめをつける。私たちが選んだ選択に後悔はしてない』
「...っ」
悔しげな表情に、また涙が眼のふちに溜まっているのが分かる。
今にも流れてしまいそうな涙をこらえて、ルフィはAを見た。強めの口調だったくせに、酷く優しくて、余裕があるようなそんな顔をするAに嫉妬する。自分はまだ弱いのだとそう思ってしまうから。
だからせめて涙は流すまいと、必死にこらえた。
『...ルフィ。お前は信じたいもんを信じろ。私も私の信じたいもんを信じる』
「...ゔん。」
『お前は強いな...』
ぽんぽんとルフィの頭を撫でるA。その優しい手つきに安心する。
なんでこんなにもこの人の隣は心地よいのだろう。
波風に揺られるその白い髪が、夕日に染まって赤く見える。
その姿は、どこかシャンクスを思わせた。
「...シャンクスも同じこと思ってんのかな」
『それは本人に聞いてみな』
「...絶交中だもん」
『っぷ...そりゃいい』
そう言ってAは、いつものように笑う。
静かな海岸に笑い声が聞こえた。
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アップルパイ(プロフ) - めちゃくちゃ良い作品だった…(泣)神作品すぎるしゆりあさん天才すぎる…この作品に出会えてよかった…夢主も自分好みすぎて…最高の作品をありがとうございます…!! (2月29日 13時) (レス) @page43 id: c2bcbcc7a7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりあ(プロフ) - ななせさん» コメントありがとうございます!神作だなんて...!めちゃくちゃ嬉しいです!私もななせ様に出会えてうれしいです! (2023年1月14日 19時) (レス) id: 029daaf82d (このIDを非表示/違反報告)
ななせ(プロフ) - なんで今までこんな神作に出会えなかったんだろう (2023年1月13日 22時) (レス) id: fd9fde8179 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりあ(プロフ) - crazyさん» コメントありがとうございます!何度も私のやる気を上げてくださって、最後の最後まで褒めちぎっていただいて...crazy様のことを女神というんです。崇めてます。番外編も作る予定ですので、よろしくお願いします! (2022年10月9日 10時) (レス) id: 029daaf82d (このIDを非表示/違反報告)
ゆりあ(プロフ) - 美兎さん» コメントありがとうございます!美兎様、かつらが追い付かないほどの愛のコメントを頂き感謝でいっぱいです!もうきっと出家されてるんですよね。仏のようにこの作品を見守っていただきありがとうございました! (2022年10月9日 9時) (レス) id: 029daaf82d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆりあ | 作成日時:2022年9月4日 19時