79松 ページ28
突如後方から水溜まりを蹴る音が近づいてきた。
振り向くと何故か切羽詰まった顔のAが肩で呼吸をして立っていた。走って来たのか靴は俺よりも汚れている。一体何事?
「どうしたの?」
「あ…えっと…、一松さん出掛ける前に洗濯物干しましたっけ?」
「あ」
「すぐ帰りましょう、今ならまだ間に合いますから」
Aに強引に手を引かれた。
すっかり忘れていた洗濯物だけど、そんなに急ぐ程の事案なのだろうか?まだ午前中だし、雨が降ってるから結局は部屋干しになると思うのに。
「すみません、失礼します」
「あ、…じゃあ、これで」
「……あぁ、さよなら」
おっさんはそれだけ言うと、俺達とは反対方向にゆっくりと歩いて去っていった。
帰路についている間のAの様子はどこかおかしかった。いつもは沈黙が続かないように適度な会話をAが振ってくれるんだけど、今は落ち着きが無いというか、いつも以上に口数が多い。それに何より、繋いでいる手が小さく震えている。
まるで自分の気を紛らわしているような、何を紛らわしているかは知らないけど、そんな感じがする。
「ねぇA」
「なんですか?」
「俺が離れてる間になんかあった?」
繋いでいる手が微かに、でも確実にピクリと動いた。
「いえ、特に何もなかったですよ?」
「本当に?」
「はい、本当に」
「嘘つけ」
足を止めれば繋いでいる手がクンと引かれ、Aの身体もそれに従って少しだけ傾いた。
それでもAは此方を見ようとしない。
「Aってこういう時は分かりやすいんだよ、もうあからさまってレベルで。自分で分かってる?」
「……なんの事ですか?」
「ほら、今だって少し間があったし。言いたくない事があったら何かで誤魔化そうとしてるのバレバレなんだけど」
ここまであからさまなのに隠そうとする態度が、逆にわざとやっているんじゃないかって思えてイライラした。
Aは自分の事については追求されないと極力語ろうとしない。どんな些細な事でもそうで、完全な受け身タイプだ。
本人は相手を気遣っての行動なのかもしれないけど、なんだかそれが信用されていないように思えて…。
「何かあったなら言ってよ。クズな俺でもなんか出来る事があるかもしれないし」
「……」
「そんなに俺は頼りない?最早ゴミでクズ過ぎるからなんの役にも立たないと思って――」
「――違います!!」
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渚(プロフ) - 月花さん» 返信が遅れてしまいすみません。1でもコメントしたのですが、Azpainter2というPCソフトを使っています (2020年2月3日 20時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
月花 - 絵上手いですね。どうやってらんですか? (2020年2月3日 19時) (レス) id: a919e6fca7 (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - 森田菜々子さん» ご要望にお応え出来ず申し訳ございません…。今後ともよろしくお願いいたします。 (2018年9月4日 20時) (レス) id: d823623ddd (このIDを非表示/違反報告)
森田菜々子 - すいません;最新頑張って下さいね。 (2018年9月4日 20時) (レス) id: e772f145ae (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - 森田菜々子さん» えっと、それは短編小説のリクエストでしょうか?それですと申し訳ないのですが、小説のリクエストは受け付けておりませんので…。 (2018年9月4日 18時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渚 | 作成日時:2018年1月14日 17時