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近くに行ってみると、享くんは自分の背よりも高い位置にある本を取ろうと懸命に手を伸ばしていた。でも、ぎりぎり指が触れる程度で、しかもこんなにぎっちりと本が詰め込まれているものだから力が入らなくて取れないらしい。
大人びた彼の子供らしい一面を垣間見た気がして、自然に口元が弧を描いてしまう。
我ながら気持ち悪いな、なんて思いながら彼の指が触れている分厚い本に手を伸ばした。
「はい、どうぞ」
背の高い俺に余裕があったからなのか、案外本はするりと取れた。そのことに内心驚きつつも俺を見上げる享くんにずっしりとしたその本を差し出す。
すると彼は驚いたように、わずかに目を見開いた。
「ん?どうかした?」
疑問に思って問いかけると、一拍置いて彼は小さくかぶりを振る。
「いえ……ありがとう、ございます。助かり、ました」
「ううん、全然気にしないでよ。ところで、その本がどうかしたの?」
かなり分厚くてずっしりとした本を、彼は両手で落とさないようにしっかりと抱えた。大丈夫かな、なんて心配もしたけど、享くんの表情が心なしか穏やかなように見えたので口を出すのはやめておいた。その代わりというわけではないけれど、俺はまた彼に問いかける。
享くんは言葉を探すかのようにほんの数秒沈黙した後、口を開いた。
「これは……昔に、見かけたもので……懐かし、くて」
と、意外な答えが返ってきた。俺はその返答に対し、ある違和感を抱く。
『昔に見かけた』?享くんの言う″昔″が現実世界でのことなら、何故それがここにある?ここが享くんの夢の中だと言うのなら不自然ではないけど、でもここは″夢の中のお友達″に連れてこられた夢の世界。ってことは、″あの子″はもしかして、現実に──。
「なんて、まあ無いか……」
「……はい?」
思わず口に出して呟くと、享くんが不思議そうに首を傾げた。その様子を見て、慌てて弁解する。
「あっ、ごめんね!俺から聞いておきながら黙っちゃって……!今のはなんでもないんだ。気にしないで」
小さい子相手に情けないなあ、なんて思ったけれど、対する享くんはこくりと頷いた。
「……はい。
「うん、それじゃあ行こうか。って言っても、進めそうなところはもうないかな。2連梯子を使って上に戻れば、またみんなと合流出来るかも」
って言っても、2連梯子を俺一人で運べるかなあ。なんて思いながら梯子のあった方を振り向き、そして声を上げた。
「あれっ?」
そこにはさっきまでなかったはずの小さな木の扉が、姿を現していた。
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