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「いやー、びっくりした!まさか他に人がいたなんてな」
息を整えながら彼は上機嫌そうな態度で顔を上げ、私を見た。襟足まで伸びた黒に近いブルネットの髪。前髪は綺麗に分けられており、澄んだターコイズブルーの瞳と真っ直ぐに目が合う。
背格好からして、小学生くらいかしら。脳裏で目の前の彼を分析していると、やがて完全に落ち着いたのか彼が口を開いた。その言葉で唖然とすることになるのだけれどね。
彼が言った。
「で、お前誰?」
「……は?」
思わず固まってしまう私に対し、彼は膝についていた手を離して上体を起こしてから、再度問うた。
「だーかーらー、……お前、誰?」
「……はあ……」
今度はむっとしたように眉根を寄せて言う彼に、自然と口からため息が漏れた。すると、それが癇に触ったらしく更に顔を顰め声を荒げた。
「何だよ、感じの悪い奴だな!」
「それは此方の台詞よ。第一、人の名前を聞く前に自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
そもそも声を掛けて来たのは貴方なのだから、と付け加えて言うと、すかさず反論が飛んでくる。
「そう言う奴の方から名乗るべきなんじゃねえの?礼儀とか何とか、初対面のくせにうるせえよ」
「あらそう。じゃあもういいわね。失礼な人の名前を知りたいとも思わないから」
「なんなんだよ!こっちこそお前みたいな奴と仲良しごっこなんかする気ねえよ!」
全く、本当にとことん巡り合わせが悪いわね。呆れた眼差しを少年に向けつつ、横目で私に付き纏って来ていた彼を見やる。すると彼は不審そうに此方……正しくは私の視線の先の少年をじろじろと見ていた。するとその視線に気が付いたのか、少年が口を開く。
「なんだよ、……ん?お前……」
かと思えば彼も眉を顰める。お互いに睨み合う彼らを、私はどういう顔で見ていたのやら。
「お前、三垣……」
「え、やっぱりお前──」
「い、いや。なんでもない」
ぱっと視線を逸らす少年。でも確かに聞こえた。
成る程、彼らは知り合いらしい。
もういいかしら。そう思い歩き出そうとする私を勢いから咄嗟に引き止める声。
「おい、勝手にどこ行くんだよ」
「あら、私と仲良しごっこをする気はないんじゃなくて?」
そう言って見下したように笑みを浮かべると、また彼は反論しようと口を開いた──その時だった。
「あー、もう、駄目駄目。なぁんですぐ喧嘩しちゃうの。仲良くしてよ」
どこからともなく、カスミちゃんが姿を現した。台詞とは裏腹に、掴み所の無いあの微笑を浮かべて。
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