揺らぎ【赤】

008 ページ8

電車で移動している時が、いつも一番緊張している気がする。


送られてきたマップの最寄り駅に到着した。
メッセージを送ったけど、なかなか既読にはならない。

なんだかソワソワしてしまって、近くのコンビニに寄ってから人通りを離れる。
少し歩くと目的地に到着した。



エントランスのガラスの奥に、壁に寄りかかって携帯を弄っている人を見つける。


こんなに心臓がつぶれるような感覚、久しぶりだった。


白のトレーナーにラフな黒いズボン、帽子は被っていない。
落ち着いたと思った緊張が戻ってきて、もう胃から何かがでてしまいそう。


着いたよ！と送ると、パッと顔を上げてキョロキョロ。
私を見つけてふっと柔らかく微笑んだ。

いきなりの登場と、かっこよさで既に頭がくらくらしていながらも「遅くなってごめんね」と伝える。
エレベーターに乗り込みながら『全然大丈夫、あ、でも待ってたよ！』と明るい声で言われた。


もう飲み始めているのか、彼から仄かにアルコールの香りがする。


迎えに来てくれるなんて想定外で。
こんなに速い心臓を隠せているのだろうか。

静かなエレベーター内でそんなことを考えていた。


『雰囲気前と違うね、なんか』
「そう？変かな」
『いや、そういう系も可愛い』
「…ありがとう」


そういう系「も」ってなにー！と脳内で叫ぶ。

あんなに考えた服も、可愛いの一言で全部正解のように思えてくるから、本当に馬鹿みたいだ。






緊張からか、気付くと部屋に着いていた。

ダイニングには同い年ぐらいの男女が座っている。
もっと大人数かと思ったけれど、ミツキくんとサヤカちゃんの二人だけだった。

サヤカちゃんは…こちらを見ながらニコニコしていて。
いい子そう…かな。


少し話をしていると、どうやらここは宮近くんの家ではなくミツキくんの家のようだった。

表参道のショップ店員のような、インスタグラマーのような風貌のミツキくん。
この年齢でこの広さの部屋になぜ住めるのかは、何となく聞けなかった。

009→←007

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す