揺らぎ【赤】

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訪れたのは三度目なのに、なぜかもう安心感を覚えている。
慣れというのは不思議だ。



シャワーを浴びて、初めて来た日と同じように、トレーナーとスウェットのパンツを借りる。

男性にしては小柄な彼だけど、やっぱり緩いなぁ。


引きずりながら歩くのは気が引けて、裾を折っていると宮近くんが振り返った。

私の姿を一瞥して、テレビに視線を戻す。


『そういえば、最初に泊まった日、起きてたんだよね。実は』
「えっ」
『とっさに寝たふりした。そんでAちゃんが寝たの確認して、寝顔眺めてた』


落ち着いた声色とは裏腹に、突然落とされた爆弾。
驚きのあまり言葉がでてこない。

寝顔を…眺められていた…？

まるで私のこと好きみたいだ。いや、好きって言ってくれてはいるんだけど…こう…なんというか…。


完全に動揺したこちらが何かを言う前に『おれも風呂行ってくるわ』そう言って消えていった。


でも、もし、あの時彼が起きていたら確実に最後まで行っていた。

その場合、たどった未来は？

考えても仕方がないけれど。
混ざり合う複雑な感情が、形容しがたいまま胸の中に渦巻いていた。




最近、夜が寒いので…とひとりで言い訳して、椅子にかかっていた彼のパーカーを被る。
宮近くんのにおいが強くなって、胸がぎゅっと締め付けられる。

いつのまに、こんなに好きになっていたんだろう。


テレビに流れているのは、何とかロードショー。
クモ系の能力を使う主人公の海外映画だ。


真剣に見ていると、宮近くんが帰ってきた。

そちらに意識を向けつつも、目線は映画に集中させる。

隣に座った彼の、柔らかな温度と香り。


『おー、おれこういうシリーズ好き』
「おもしろいよね」


と何とも中身のない会話をしつつ、宮近くんもビールを飲み始める。

穏やかな空気の中、
たしかに流れるくすぐったさにどちらが先に触れるのか、お互い探り合っていた。

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