揺らぎ【赤】

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『俺の勝手に振り回されて』
「…」
『かわいい子』
「…っかわいくないっ」
『かわいいよ。だから、本当に振り回されてるのは俺のほう』


以前見たことのある、諦めたような笑顔。

そんな顔をさせてしまったことに、さらに涙が零れ落ちる。


初めて出会った日を思い出す。

ドライブで見せた表情、初めて唇に触れて迎えた、不健全な朝日。

タクシーでの会話、怒りを含んだキス。

私が自分を守るのに精一杯だった、あの瞬間全てが、宮近くんを傷つけていたなんて、少しも考えなかった。

もっと早く伝えていれば。

そんな自分が許せなくて、なんだか反抗したくなってしまう。


「私、宮近くんが思うほど純粋じゃない」
『うん」
「ずる賢いし」
『うん、頭の回転早いよね』
「今日だって胃袋掴む作戦だし」
『まーじで美味かった、ありがとう』
「毎回こんなお洒落しない」
『俺のためにしてくれたってことでいいの？かわいいね』


ちょっと笑いがら髪を指でくるくるされる。
そのまま、ちゅって髪に口づける。

絶対、からかわれている。

恥ずかしさで真っ赤になる私を見て、宮近くんは喉の奥で笑った。


私の手をじっと見て、上から手を重ねて、ゆっくりと、焦らすように恋人繋ぎに変える。


「ねぇ、こんなの、キャラじゃないでしょ」
『嫌なの？』
「いじわる」
『好きな子にはね』


おどろいて手にギュッと力をいれてしまう。

そんな私に見せる、愛おしそうに柔らかい、その表情。

あぁ、初めて見たよ。

胸にじんわりと温かさが広がって、また目頭が熱くなる。

ふっと自然に目が合った。


『友達じゃなくて、俺のこと、彼氏にしてほしい』
「…うん」


やっぱり、嘘みたいだ。

夢みたいにふわふわして、視界が滲んでいく。

ふっ、と照れを誤魔化すように笑った顔が、とても愛おしかった。


彼の瞳の奥にあるのは、淡く色づいた炎。

その色が私を優しくとらえて、身動きが取れなくなる。


『A、好きだよ』

「私も、好き…大好き」



ゆっくりと近づきながら、顔を傾ける。

緊張して微かに震えた手を、宮近くんが優しく握り返した。

そのまま目を閉じると、温かな唇がそっと重なる。

離れたあと、零れ落ちる涙を、唇で優しく拾われた。

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