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左腕を持ち上げ、その背中に触れようとして、止める。
今更、何が変わるっていうの。
体の距離が近づいたって、心が近づかなければ、辛いだけなのに。
『だから、もっと仲良くなりたいなって思ってたんだけど…』
少し笑ってから、前髪を触る仕草を後ろから見る。
すうっと息を吸う音が聞こえた。
『おまえ馬鹿じゃねぇのってぐらいガード緩いし、何しても拒まないし。でも、もう気付いた時には手遅れだった』
どういうこと?
…話の意味が理解できない。
「ちょっと待って、どういう意味?」
『どうもこうもないだろ…』
「え…?」
急にふり返った宮近くんが、立ち上がり、私の両腕をとる。
そのままぐっと体重をかけられて、黒の革張りのソファに押し倒された。
理解が追い付かないまま縮まった距離に、素直な心臓だけが警鐘を鳴らす。
服越しの体の感触。
ほら、また、喉が締め上げられるように苦しい。私ばっかり、苦しい。
そう思っていたのに。
目に映るのは、あの日、タクシーの中で見たのと同じ。
苦しそうに眉をひそめて、ただ深い悲しみだけを湛えた瞳。
心臓が掴まれたように痛む。
彼の顔がゆっくりと近づいてきて、反射的に目を閉じた。
『…ほら』
不思議に思って目を開けると、先ほどよりも潤った瞳と出会った。
今にもこぼれ落ちそうな涙につられて、鼻の奥がツンとする。
『拒否しろよっ、』
「…!」
『分かってんだよ頭の中では。というか無自覚でそうしてるのがマジできつい』
「なにを言ってるの、」
『他の男とか、海人にも同じようにしてんだろ』
「そんなことない、私は…!」
『っは、しらばっくれんな』
「…っ、」
じわりと歪んだ視界に、肩を震わせながらうつむいた宮近くんが映る。
『Aにとっては遊びだって、自分を納得させようとしてんのに、もう、苦しいんだよ…』
そのまま倒れ込んできて、体重をかけられる。
押し付けられた体が熱い。
首元に顔を埋めた宮近くんが、腕を回し、力をぎゅうっと強める。
まるで、離したくない、って言っているみたいに。
「私は…宮近くんとしか、こんなこと、してないよ」
瞬きをすると、両目からスーッと涙が頬を伝う感触がした。
『んなわけ…』
「キスしたのも、宮近くんだから拒まなかったんだよ…?」
『…。』
体を離し、こちらを見る。
信じられない、という表情の彼。
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N11(プロフ) - kiwiiさん» すみません、返信が遅くなりました。kiwiiさんと共に完結を迎えられて嬉しいです。一番大切なのはキャラクターへの愛かもしれませんね。この作品の宮近くんを愛してくれてありがとうございました。ご期待に添えるよう次回も頑張ります。引き続きよろしくお願いします! (2021年2月8日 11時) (レス) id: 022d617d7b (このIDを非表示/違反報告)
N11(プロフ) - マツタケさん» すみません、通知が無くて返信が遅くなりました。コメントありがとうございます!こだわっていた部分なので、お褒めの言葉とてもとても嬉しいです。次回は10ヶ月も練っていられませんからね笑 ご期待に添えるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いします! (2021年2月8日 11時) (レス) id: 022d617d7b (このIDを非表示/違反報告)
kiwii(プロフ) - お疲れ様でした。「揺らぎ」の宮近くんにもう会えなくなると思うと寂しい位心掴まれるお話でした。N11さんは"心苦しかった"とありましたが、本当に言ってそうなセリフにキャラクターへの愛をいつも感じていました。大好きな作品です!次回作を心待ちにしています! (2021年2月5日 9時) (レス) id: e9b2ea3480 (このIDを非表示/違反報告)
マツタケ(プロフ) - 完結おめでとうございます!約10ヶ月の構想と知り、驚きと尊敬を覚えました。しっかりとした構成、人物像、ムードが最高でした。次回作も待ってます! (2021年2月5日 1時) (レス) id: 2ce99fa258 (このIDを非表示/違反報告)
N11(プロフ) - kiwiiさん» コメントありがとうございます。初めてコメントを頂きました…とても嬉しいです。温かいお言葉が何よりも励みになります!物語も終盤に差し掛かりましたが、どうぞ最後までお付き合いください。 (2021年1月31日 19時) (レス) id: 022d617d7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:N11 | 作成日時:2021年1月9日 1時