揺らぎ【赤】

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『普段、誰かに飯作ったりする？』


水音のせいか、少し大きめの声量。


「ないよ、一人暮らしだもん」


無言で返される、何で聞いたの…。


「誰かに手料理食べてもらうなんて、この前タコパした時以来かな」
『へー、タコパいいじゃん、何作ったの？』
「ちょっとしたおつまみとか、テキトーに」
『マジで、そういう人ほど料理上手いよね』
「でも、その時はうみくんにもっとこれが食べたいだの何だの文句ばっかりいわれて」
『…』
「その点、宮近くんは全部褒めてくれたから作り甲斐があるね」


褒めたつもりなのに。かき消されて聞こえない、またそんなふりをされてしまった。





キッチンから出てきた彼が、コーヒーをテーブルに置く。

その後に、どこからかブランケットを持ってきて、私の座る横に置いてくれた。


「ん、ありがと」


少し寒いなと思っていたからありがたい。

彼は、そのままソファーには座らず、背もたれにするようにして左斜め前のフローリングに座った。

一緒にいるほどに強まる思い。

こうした気遣いや優しさが、大切にされているなんて勘違いばかりさせてくる。

最後は突き放すくせに、ね。


「そういえば、うみくんから聞いたんだけど…私について悩んでることがあるって」


宮近くんの肩がぴくっと揺れて、誤魔化すようにテレビのリモコンを手に取った。
後ろからで表情は良く見えない。

どんなことを考えているのか、何一つ分からなくて胸が重くなる。

初対面の時の方が、もっと、近かった気がするのに。


『Aちゃんって、大学、文学部だよね』
「うん、そうだけど…」


出会った頃に話したこと、覚えていてくれてたんだ。

あの時は、お互い、夢中になって話していた。何をしているのか、何が好きか。他愛ないこと、なんでも。


『俺とは全く違う世界にいたのにさ…話してみたら、正直すげぇ気が合うなって思って』
「よく行くお店が一緒だった時は、本気でびっくりしたよね」
『そうそう、趣味だけじゃなくて普段の何気ないものに対する考え方とか、全部合うよね、俺たち』


そんなことを思ってくれていたんだね。

じゃあ、どこで間違えたのか。
簡単に触れたりしたから、もっと知りたいなって思ったりしたから。

これじゃあまるで、別れる前の男女の会話だ。


相変わらず綺麗に刈り揃えられたうなじに、彼を象徴するフープピアス。

最後ぐらい、私から抱き着いてみても、許してはくれるだろうか。

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