揺らぎ【赤】

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待ち合わせで、と言うと奥にある個室に案内された。

中に入ると、すっかり気を緩めた様子のうみくんが笑顔で待っている。


「おつかれ〜A、何飲む？」
「同じので」
「おっけ」


聞くところによると、彼の知り合いの店らしく、一人でもよく来るのだという。


手慣れた様子で注文し、届いたビールと冷菜に満足げな表情をした。


会う場所全部、薄暗いところだったからか、彼の表情の豊かさに今更気が付いた。


「よし、かんぱ〜い！」
「ん、乾杯！」


テンション高めな彼を横目に、喉に流し込む。

「めっ〜〜〜ちゃ良くなかった？映画、何度観てもいいわ」
「うん、感動して泣いちゃったもん」
「隣で鼻水垂らしてんだもんな〜」
「垂らしてないってば！」


アッハ！と陽気に高い声で笑う彼を見て、ほっと胸をなでおろす。

なんだか緊張していたみたいだった。


サラダを取り分けながらふと思う。
彼は、彼らは、なんて狭い範囲でしか、心を開放することができないのだろうと。


「というか、チケットも飲み物もありがとう。いくらだった？」
「いーのいーの、俺が突然誘ったんだから」
「でも…」
「じゃあこれを食ってから文句をいえぇ！！！！」


そう言いながら差し出されたお肉は、なんだかとってもおいしそうで。
彼の愛嬌たっぷりの表情に釣られ、そのまま口に入れてしまう。


「あっふ！」


絶対わざとだ。
一口目からやけどをしてしまった私を見て、腹を抱えて笑っている。

同い年なのに、なぜだか小学生を彷彿させた。
せわしなくて時々むかつくけど憎めないやつなのだ。

ヒイヒイ言いながら笑う彼につられ、私も笑みがこぼれる。



顔を隠すように目深に帽子を被り早足で進むところも、最大限に気を配ったエスコートも、彼の行動の節々に宮近くんを感じてしまう。

彼らにとっては当たり前に染み付いた仕草が、私にとっては違和感となる。

大きくて、埋められない溝。



「芸能人ってとんでもない生き物だって思うけど、」
「ふっ…とんでもない、かぁ〜」
「なんか、うみくんみたいな人が彼氏だったら、幸せなのかもしれないなって」


恥ずかしくなって語尾を弱めてしまったので、なんだか本気で言ってしまったみたいになる。

本心だけど、本気で言ってはないっていうか。



「Aのそういうところ、」
「ん？」
「ほんと俺に似てる」



何故か苦笑いをしたうみくんに頭は疑問でいっぱいだった。

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