揺らぎ【赤】

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『Aのが高いところに居るから、しやすいね』


余裕と色気をにじませた表情。

こんな宮近くん、知らない。



「っはぁ、」
『ただの友達にチューされて、こんなになってんの？』



息の上がった私を、くすりと笑う。

その様子を見て、ずっと宮近くんに感じていた違和感の正体が、くっきりと姿を現した気がした。


始めから彼の行動を思い返してみれば、すぐに分かることだった。

彼は、私に”普通”であるように感じさせていただけで。

そのラフな雰囲気も、口調も、少年っぽいところも、彼が演じている”普通”の男の子だ。


おかげで最初の警戒心はいとも簡単に崩され、心を許してくれているだなんて思い込んでしまった。

初めてキスした時だって、雰囲気に流されたからではない。
全部分かったうえで、ゆっくりと毒を飲ませるように、私が落ちていくところを楽しんでいたんだ。



その結果がこれだ。

何の警戒もせず簡単に家にあげてしまうし、まるで中毒みたいに、頭の中は宮近くんでいっぱいで。

キスひとつで、どんなことをされたって許してしまいたくなる。



最初から責任なんて取るつもりなかったんでしょう。
「友達」じゃないのに、「恋人」という名前をくれないことが、何よりの証拠だった。


じわりと視界がにじむ。

そんな私を見て、宮近くんが困ったように眉を下げた。



『ずるいなぁAは、ほんと』



ずるいのはどっち。

反論しようとした下唇を軽くかまれて、思わず口をあけてしまう。
するりと入り込んできた彼の舌が熱い。

息が苦しくなって両手でぎゅっと背中辺りを掴むと、愛しむように髪をなでられた。

何もできずに翻弄されるまま、歯列をゆっくりとねぶられて簡単に力が抜ける。


彼が望むのは友達じゃない。

こうやって好きなように楽しめる、都合のいい相手。

今日の言動も、そんな相手をうみくんに取られそうになって、焦っただけだ。

暇つぶしか。ゲーム感覚か。
芸能人である彼が、いつ裏切るか分からない一般人の私に構う目的なんて、それ以外ないじゃない。


他にあるとすれば、



『好きだよ、』



わざと口にしたんだろう。
なんて残酷なセリフ。


あぁ、苦しそうな演技も上手だね。


そんなはずはない。あり得ないのに。

雰囲気を盛り上げるために言ったぐらいの言葉に、簡単に胸がときめいてしまう。

苦しい。何もかも苦しくて。
でも、たまらなく幸せだった。

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