揺らぎ【赤】

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居酒屋の有線から流れる最新のポップミュージックをハイボールで流し込む。

ポーチを鞄の中から取り出したサヤカちゃんは、にやにやを隠さないまま「どうぞ」と手渡してくれた。


嫌な予感がしたので「ありがとう」と言って、そのまま被せるように質問する。


「…で、ミツキくんとは？」
「おかげさまで、付き合うことになりましたぁ！」


普段より更に元気な声を上げた彼女は、絶好調といった感じで満面の笑みを見せる。

落ち込んでいた気持ちが、少しばかり引き上げられた気がした。

素直にお祝いの言葉を口にすると、


「じゃあ次は、もちろんAちゃんの番だね〜！」


そう言ってまたニコニコ。


「…どうして私がでてくるの」
「えぇ？！だってあの日、ちゃかの家に帰ったでしょ！」
「なんで知ってるの」


頭を抱えると、間があってから「えへへ〜」と濁された。

宮近くん経由か…。


「ついに二人がね〜」
「…いや、特に何もしてないよ、私が鍵の場所分かんなくなって、親切にしてくれただけ」
「え？本当に何も？」
「本当に何もないってことは、ないけど…」


「あったんじゃん！」って手をばたばたさせるサヤカちゃん。

冷えて硬くなった焼き鳥を咀嚼していたら、何故だか素直に話したくなった。


「宮近くんはたぶん、本気でそうしたかったんじゃないと思う、その場のノリというか。みんな結構飲んでたでしょあの日、だから…」
「ちょっと！ちょっとまって！！！」


コミカルな動きをしたまま固まる彼女。

思わず吹き出すと、緊張した面持ちのままこちらに目を向ける。


「…なんでそう思うの？」
「だって、そうとしか思えない」


宮近くんのこと、初対面では、めちゃくちゃな遊び人だと思った。
なのに、仲良くなればなるほど、意外にも”普通”なのだ。

こちらが冗談を言えば笑って、それ以上にボケたがる。

思わず笑ってしまえば、無邪気な笑顔を返してくる。

言わば普通の男の子だから、あんな風に酔った勢いで流されてしまうなんて、全くあり得ないことではなかった。

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