揺らぎ【赤】

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『これはここでー、うん、おっけーかな…全部勝手に使っていいから』


眠そうな顔のままバスルームへと案内して、タオルやドライヤーの場所をてきぱきと教えてくれる。


「何から何まで、ありがとう」


そう言うと、待ってる、の代わりにまたキスを落とされた。

いちいち胸が苦しくなってしまうのが悔しい。

洗面所の鏡に映る二人が、少しためらってから離れる。

余韻が残ったまま、扉が閉まって宮近くんの影が消えた。




コンビニで買っておいたメイク落としを使ってから、丁寧にできるだけ早く、シャワーを終える。

女性の影をあまり感じないことに疑問を抱いた。

…片付けたのかな。

棚に並ぶメイク道具やクレンジングは、職業柄使うからと言われてしまえばそれまでで。

髪を乾かしながら、なんとなく柔軟剤の種類を確認する。

あれこれ頭で考える癖に、行動に身を任せてみれば、自ずと欲求が見えてくる。

そんな自分なら、なかなか扱いやすいと思った。









結論からいうと、宮近くんはベッドの上で爆睡していた。

携帯を握りしめながら、赤ちゃんのような寝方をしている。

なんだか拍子抜けして、その横に腰かけた。




先ほどの眠そうな表情から察するに、最近は毎日忙しいのだろう。

ミツキくんの家では、あんなに簡単に起きたのに。

ドライヤーの音でさえ起きやしないなんて。



だけど。この熱に従って行動するほどの勇気は、持ち合わせていない。

今、宮近くんを起こしたところで、その先にたどる未来は明確で。

起こさないことで訪れる未来の方に期待してしまう。

いまさら無駄だと笑われるだろうか。




時刻は6時を過ぎていたので、セミダブルのベッドに私も寝転がる。

いろいろな緊張から一気に解放されて、目を閉じると、望まずともあっという間に飲み込まれていった。

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