揺らぎ【赤】

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体勢がきつくなってきて少し動くと、宮近くんはふっと目を覚ました。


いつもに増して、とろんとした瞳がこちらを捉えて、数秒間視線を彷徨わせ、またこちらに戻る。

「おきた？」と小声でつぶやくと、無言でぎゅっと抱き寄せられた。


「後半きおく、ない…」
『マジ？めずらし』
「なんか、やらかしてない？」
『俺の顔見ては、カッコいいって連呼してた』
「うそ…」
『ふっ、うそうそ、でもすげえ甘えてきて』
「…そっちの方が最悪」


こんな会話をするなんて思ってもみなかった。

吐息を交わすのが心地よくて、でも恥ずかしくて、胸元に顔を埋めると喉の奥で笑われた。



『今日休み？』
「うん」



なんとなく、二人で帰るかって雰囲気になって、洗面所に行って歯を磨いて、化粧を直す。

二日酔い対策はしてきたから頭痛はないけれど、シャワー、浴びたいな…。

ダイニングに戻り片付けをしていたら、昨日の暴れっぷりがすごくて少し笑ってしまった。

寝室の様子を見に行った宮近くんが帰ってきて、10分でタクシーくるっぽいと告げられる。

声のトーンはいつもの彼なのに、その先の甘さを知ってしまったから。

なんだか物足りないような感じてしまう。




いつのまにかキャップ被った宮近くんと、タクシーに乗り込んだ。

「先にどうぞ」そう言われ、自宅の方向を伝える。

それ以外に会話は無い。

あっという間に着いてしまいそうだった。



ふと、いやな予感がする。

…ない。鍵を入れたポーチを忘れてきてしまったかもしれない。


私の様子が変わったことに気が付いた宮近くんが、こちらに視線を向ける。


「鍵とか入ったやつ、ミツキくん家に忘れてきちゃったかもしれない…。」
『マジで？全部確認した？』
「うん、今した…。」


たぶん、洗面台の辺りに置き忘れた気がする。

どうしよう、降りてもう一度タクシーを拾いなおして家に戻ろうか。

寝ている二人を起こすのは気が引けるけれど…。



色々な方法が頭の中を駆け巡り、口を開こうとしたその時、


『すみません、その先の交差点、左に曲がってください』


突然、運転手さんに向かってそう告げた宮近くん。


別の方向を言い終わると、


『ここからすぐだから』
「え、でも…」
『こんな早朝に、色々考えるのもめんどくね？』


そう言いながら笑う。

宮近くんが今どんなことを考えているのかなんて、やっぱり理解できなかった。

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