【弱虫ペダル】空ノ向コウ【東日本大震災】

6.15頃 空色自転車 ページ16

とは言っても、部品などなかなか手に入りません。

当然近所の自転車店はやっていません。

そもそもロードレーサーを取り扱わない店だってあります。

そうこうしているうちに私は小学校6年生になりました。

それから2ヶ月した頃、伯父さんのつてで友人などからやっと部品などを送ってもらえました。

「海、感謝しろ。これを送ってくれた人にな。」

ダンボールの中を見せ、伯父さんはそう言いました。

私は感謝して意気揚々と整備を始めました。

いつも私は空と共に伯父さんにやり方を教えて貰っていたからだいたいはわかりました。

時々伯父さんに手伝ってもらいながら私は整備を進めました。

さらに１ヶ月した頃、私たちは何人かの親戚と共に仮設住宅に移ることになりました。

足りない部品も送ってもらえて私は幸運だったと思います。

「海ちゃん。」

私が整備をしていると親戚のおばさんが話しかけてきました。

「なんですか？」

「それ、必要なの？」

「え？」

私は意味がわかりませんでした。

「だって危ないから遠くに行けないじゃないの。それに足りない部品だっていろんな人に送ってもらったんでしょう？迷惑かけてるじゃない。」

「迷惑…」

私の頭の中をその言葉が支配しました。

「だったらスペースもないし、いっそ手放した方が… 」

「れみさん。」

何も言い返せない私にさらに言葉を続けようとしたおばさんを遮ったのは伯父さんでした。

「部品を取り寄せたのは俺です。道路だっていつまでもあのままじゃない。遠くには行けなくても目の前の道路なら短いけど走れるじゃないですか。目も届くし大丈夫です。何かあったら俺が責任を取ります。」

「勇太おじちゃん…」

私の後ろから現れた伯父さんは私を庇ってくれました。

「…わかったよっ、私は知らないからねっ」

おばさんはイライラした様子で家に入ってしまいました。

思えばおばさんが私の自転車をよく思わないのも当然なのです。

部屋には用具は置いてあるし、普通の自転車より遥かに値段が高い代物だから厳重に鍵をかけなくてはいけない。

それを考えたら確かに面倒です。

でも、空の自転車は未来を見失いそうになった私の生きる理由でした。

簡単に手放すことなどできません。

伯父さんはそれをわかってくれていました。

いえ、伯父さんにとっても大切なものだったのでしょう。

写真は愚か、家も含む全てを流されてしまった今、空の遺品はこれくらいしかなかったのですから。

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