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木から木へと物凄い速さで移動していく。

私を抱き上げているというのに軽々と。



忍術学園は小さくなっていき、やがて見えなくなった。




(本当に簡単に忍術学園を抜け出してしまった…)



私が今まで思い悩んでいたのは何だったのだろう。
そう思う程、容易く成された脱出。


しかし行き先は未だ明かされていない。




離れてみると、忍術学園が山奥に位置しているように見えた。

あの時山へ向かっていた私は間違いじゃなかったのか。




内蔵がふわりと浮かぶのを感じながら、山をすごい勢いで降りてゆく。




(…どこでもいいか)




流れる景色をぼんやり眺めながら、どうせ死ぬんだし、と結論づけて、私はそれ以上何かすることは無かった。







*





「はい、到着」

連れてこられた先は、河原だった。


河原に生えている一本の高い木の枝に雑渡さんは着地し、私を幹に近いところに座らせる。





木の枝や葉の隙間から、石ころで敷き詰められた平地と横に続く川が見えた。

風が吹き、ところどころある緑がさわさわと揺れる。



雑渡さんは私の隣に立ったまま、こちらを見下ろしてくる。





「Aちゃん、だっけ」




何で名前を知っているのだろうという疑問は、先程伊作さんが私の名前をこの人の前で何回か呼んでいたことをすぐに思い出して解決した。



「…そう、ですけど…」
「私はタソガレドキ忍軍忍び組頭、雑渡昆奈門だ」


タソガレドキ、というとどこかのお城だったっけ。
組頭…なら、上の人(・・・)



(最初から強い忍者だって分かってたら逃げようとしなかったのに…)




「君と少し話がしたくてね。忍術学園じゃ話をしようと思っても邪魔が入るだろうから、連れ出させてもらった」

「……そうですか」


雑渡さんは私の隣に足を揃えて座った。



さっきまでは焦っていたからなのか気が付かなかったけれど、雑渡さんの忍び装束の隙間からは包帯が身体に巻かれているのが覗いている。


顔を左目を覆うように包帯を巻いているだけじゃなく、全身に巻いているのだ。




「早速なんだけど、私のことは覚えて…ないみたいだね」

「…え?」

私は雑渡さんの顔を凝視した。


「覚えてなくて当然か」と零す雑渡さん。

私とどこかで会ったことのあるような口ぶりだが、私の方はというと全くもって心当たりがない。

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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月6日 16時

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