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(ああそうか、この人は最初から私が逃げられるなんて……違う。逃がす気がないんだ)
「でもなかなかガッツあるね。
実力を知らない初対面の忍者相手に怖気づかない。満身創痍なのにも構わず不意をついて逃げ出す。
もしかしたら君、忍者向いてるかもよ」
目の前のその人は笑みを浮かべた。
私が困惑しているのを気にもとめず、その人は「あ、女の子だから忍者じゃなくてくノ一か」なんてとぼけたことを1人呟いている。
「ざ、雑渡さん!」
「やあ伊作くん」
私の後ろから伊作さんが近づいてきて、私を挟んで親しげに名前を呼び合った。
「どうしてここに…?」
伊作さんもこの状況に驚いているみたいで、どうやら手を組んでいるわけではなさそうである。
「この子に用事があって」
黒柿色の忍び装束のその人改め“雑渡さん”は私の方を見やった。
「Aちゃんに?」
「そう。だから、」
「う、あッ?!」
私の身体が一瞬で宙に浮いた。
それに驚いて、情けない声が口から飛び出る。
膝の裏に回された腕と、肩を掴む手のしっかりとした感触に、俊敏な動きで雑渡さんというその人に横抱きにされたのだと分かった。
「伊作くん、この子借りていくね」
「え?!」
そう言うと、たちまち雑渡さんは近くの塀の上へと飛び移った。
廊下に立つ伊作さんが遠のく。
「大丈夫、ちゃんと帰すから。忍術学園の人には内緒にしてて」
私を軽々抱き上げるその人は、少し遠くの伊作さんに向かって少し声を張り上げた。
「ちょっ、雑渡さん!?」
伊作さんの困った声が返ってくるのを無視して雑渡さんはさらに飛び出した。
「まってください!あの!ちょっと!!」と叫ぶ伊作さんの声はどんどん離れて、やがて聞こえなくなる。
雑渡さんはいとも簡単に学園の外へ私を連れ出した。
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月6日 16時