きっと息をやめるまで 2【RKRN】 (ページ36)

今日:15 hit、昨日:27 hit、合計:57,777 hit

2 ページ36

「…そうですか」

安心したような表情をした伊作さんに、私は作った笑いを向ける。

「それじゃあ私、部屋に戻ります」

「…あ…うん」

自分の足元を見たまま、私は障子を開けて再び部屋に戻った。

まだ伊作さんの視線が背中に感じるような気がしながら障子を閉めて、思わずため息が漏れる。

「…はあ」

と、その時だった。

私がため息をついたのとほぼ同時。

目の前で、何かが＿気配が、上から空を切るのを感じた。

「！？」

私はおっかなびっくり、頭を振り上げて目の前を見る。

部屋の真ん中に、片膝をついている黒い服を着た人がいた。

その人はすっと立ち上がり、少し遠くから私を見据える。

(誰だ、この人は。天井から現れた…？忍び装束を着てるってことは学園の先生…？)

けど、頭巾だけじゃなくて口元も同じ色の布で覆っているし、さらに左目は包帯で隠されていて…何よりその佇まいが…片方だけ見えている目が。

私をじいっと捕らえて、まるで狙われている様だった。

「…あの、」
「静かに」

私が話そうとすると、低い声に遮られる。

「しい」とその人は自分の口元に人差し指を立てて、そのままこちらにすたすた歩いてくる。

(喋るな、ってこと…？)

私の背中がつくかつかないかのところには閉めたばかりの障子が立ち塞がっている。

(どうする？逃げる？)

私よりひと回り大きい身体のその人はあっという間に私の目の前までやって来て、顔をぐっと近づけてきた。

お互いの鼻先がぶつかりそうなくらいの至近距離まで迫る。

そのままその人の鋭い片目と間近で見つめあったまま、ややあって、その人の目がぎゅっと細められた。

口元に当てられている布もそれに合わせてかすかに動き、身構えるこちらを安心させるために微笑んだのかもしれないと気がつく。

そして、低い声でそっと、

「ちょっと、一緒に来てもらいたい」

私の腕にその人の手が伸びて来るのが見えた。

「…どこに！」

一か八か。

私は障子を背にしたまま開け放って、部屋の外へ飛び出した。