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その日、山田伝蔵の息子である山田利吉は忍術学園を訪れていた。
フリーのプロの忍者である彼がわざわざ仕事の合間を縫って忍術学園へやって来たのは、父に今日こそ次の休みには家に帰ってくるという約束を取り付けるためだ。
しばらく家に帰っていない父には母に一刻も早く元気な顔を見せて欲しいのだが、それが何度言っても仕事が忙しいのを理由に帰らない。
(母上はきっと寂しい思いをしているだろうから、父には今すぐ有給を取って家へ帰ってもらわなくては)
門で入門票へのサインのために出迎えてくれた事務の小松田に「山田先生は今授業中ですよ」と言われ、利吉は授業が終わるのを父の部屋で待つことにした。
山田先生の部屋へ続く廊下を歩いてゆき、目的の部屋のすぐ近くまで来たところで、利吉は見慣れない少女の姿を見つける。
(あれ、誰だろう。着ているのは忍術学園のピンク色の制服…?女の子、だよな…ここは忍たまの長屋のはずなのにどうして…)
挨拶だけして横を通り過ぎようと思ったが、その時少女の体が不自然に傾いた。
「あ、ぶな…!」
少女が倒れそうになるのに、利吉は咄嗟に素早く駆け寄って腕を伸ばした。
少女は力なく利吉の腕の中に収まる。
「っと、大丈夫ですか?」
その少女の身体が包帯だらけなのに気づいて、利吉は少し驚いた。
顔にもガーゼをあてていて、戦にでも巻き込まれたのかという考えが浮かぶ。
そして自分に体重を預ける彼女に、利吉はふと違和感を覚えた。
(…軽い)
少女は脱力して、その全体重を自分に任せているように見えるのだが、それが驚くぐらいに軽いのだ。
「っ、す、すみません…」
彼女は俯いたまま、利吉へ預けていた体重を自分で支える。
自分の足で立つその様子はまだどこか覚束無いように見えて、利吉はおそるおそる腕を離してゆく。
額をおさえる少女のその顔色も、あまり良い様には見えなかった。
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月6日 16時