4. ページ6
.
薄黄色の光が睫毛をぬって瞳に飛び込む。
焦点が合わさって明瞭になった視界に映ったのは、心配そうな野薔薇ちゃんの顔。
「……あんた、急にボーっとしてどうしたの?」
「え……、」
私よりも低い野薔薇ちゃんに違和感を覚えつつ、声を出そうと試みた。
試みた、のだけれど。
振り絞った一音は聞き慣れない男の声。……男?
「───虎杖が静かだと調子狂うのよ。」
虎杖
明瞭に発音されたその名前に、私は思わず部屋の中にあった鏡に向かって走り出した。
ここは何だ。真っ白な壁、天井、ベッド。病院か。
「…………悠仁、君」
…………入れ、替わってる。
桜色の髪の毛も、目元の傷も、高くなった背丈も紛れもない彼で。
在り来りながら頬を抓ってみる。痛い。鏡の中の彼も痛そうに顔を歪めて。
こんな非現実的なことがあって良いのだろうか。
……いや、そもそも私はさっきまで宿儺と対峙。つまりは悠仁君の中にいた訳だし、ありえない話でも、
「ねぇ、……本当に大丈夫?」
「……へ?……あ、うん。大丈夫、だ、ぜ?」
下手くそに言葉を紡げば、野薔薇ちゃんは元より怪訝な顔をさらに顰めて見せた。
この時点で私の女優人生は花が咲かないと確定してしまった。あぁ悲しきかな。
野薔薇ちゃんが顔を顰めたのはほんの一瞬で、「あっそ」と直ぐにそっぽを向いてしまった。
ほっと一息つきながら、私もつられて外を見る。沈みかかった夕日。随分と長いこと眠っていたな。
「…………A、起きないわね。」
「……………へ?」
唐突に呼ばれた自身の名と、それに付随する情報。
今、何と言った?
起きない……って、まさ、か。
───ぶわりと舞い込んだ風を受けてカーテンが揺れる。
揺れた先。悠仁君が寝ていたであろう空のベッドの奥に、見慣れた姿が静かに目を閉じて眠っていた。
「…………あ、」
私だった。
まるで死んだように眠っている自分が怖くなって、近づく。手を握る。温かい。胸元に耳をあてる。
心臓の、音。
「ちょっ、虎杖何キモイことしてんのよ!!」
「痛っ!!」
「Aに触んな変態!!」
勢いよく体を引き剥がされて平手打ちを食らう。
……自分の体に触っただけなのに、心外だ。
「野薔薇ち、……さん?」
「何よ」
「あのー、わた……んんっ。
俺、何が……あったんですかね?」
.
1627人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時