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再びこの世界で肺に息を入れた時、私を照らすのは闇一色だった。
突然にして廻った世界に足がふらついて、上手く声が出せない。
それでも私は叫んだ。“彼”はここにいると、肌で感じたから。
「宿儺さん!!」
───夢を見た。
陽の光も差さぬ小さな家で、誰よりも愛した人と二人慎ましく暮らす夢。
夢の中のその人は、誰よりも美しい色をした瞳に暗い世界を映していた。
夢の中のその人は、誰よりも素敵な声にいつも世に対する悲観を乗せて嘆いていた。
私が求めたのはそんなものじゃない。
その緋色の瞳で私だけを見て欲しかった。
その耳を優しく撫でる声で私の名を呼んで欲しかった。
ただ、それだけだった。
「宿儺さん!!どこにいるんですか!!」
これはきっと、夢じゃない。
私の腹の底に眠る、手放したくなかった貴い過去の記憶だ。
「来るなと言ったはずだ。」
はっ、と。
声のする方へ顔を上げるが、人の姿はない。
「私っ、……私、思い出したんです!」
「さっさと消えろ。」
「どこか遠く、今よりもずっと昔。」
「聞こえぬのか、消えろと言っている。」
「愛する人と、二人仲睦まじく暮らしてたんです。」
「黙れ。」
まるでその一言が、呪いのように喉元に詰まる。
声が出せない。
違う、出すんだ。
言わなければならない。声を、出せ。
「───宿儺さん、なんでしょう……?」
絞り出した声は、酷く震えていた。
弾ける鼓動。増える瞬き。乾いていく喉と、突然に光を浴びて色を取り戻し始めた追憶。
これは希望的観測なんかじゃない。
確かに私の胸に残る、愛しい記憶。
どうして今まで忘れていたのだろう。
一度取り戻した感情は、きっともう消えてくれやしない。
千年越しに取り戻した貴方を、私は手離したくないから。
「忘れてて、すみませんでした。」
「怒ってくれていいです!……馬鹿でも阿呆でも、っなんでも言ってくれていいですから!!」
だから。
「…………会いたい。」
胸が苦しい。息が上手くできない。
焦りだけが加速して、色のない世界をグルグルと回りだす。
震え出す体を沈めるように、私は固く、ギュッと目を閉じた。
「───……どうして、思い出した。」
開いた、先。
誰よりも愛した人が、痛ましい瞳で、私を見つめていた。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時