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あの後、部屋にやってきた野薔薇ちゃんと伏黒君が持っていたのは大きな鍋と袋いっぱいの野菜。
心做しか高い二人のテンションだとか、時折かけてくれる慰めの声だとか。
きっと目を覚まさない私を思って、優しい悠仁君が一人抱え込んでいないか気にかけてくれているのだろう。
やっぱり、私の周りには温かい人が多すぎる。
二人に挟まれながら、野薔薇ちゃんのスマホの画面に写り込む。
画面の中の悠仁君の笑顔は、自然と心の底から溢れ出したいつもの彼だった。
*
悲しいかな、楽しい時間は驚く程速く目の前を過ぎていく。
二人が去った部屋。夜の帳が訪れた部屋の中、睡魔に抗えないまま瞳を閉じた。
気がついた頃にはもう遅い。色を失った世界。相変わらず重苦しい空気が肩にのしかかって仕方がない。
先程と変わらない場所に腰を下ろした宿儺の瞳が私を捉えた。捉えて、数秒。互いに何も言えぬまま時間だけがすぎていく。
「辞める気になったか。」
意外なことに、先に沈黙を破ったのは宿儺の方だった。
きょろきょろと辺りを見渡すが、何故か悠仁君の姿が見えない。
だからまあ、必然的に今の問いかけも私に宛てたものな訳で。
「……貴方も懲りませんね。辞める気は無いです。」
何度だって言う。
呪術師を辞めるか、という問に対する私の答えはNoだ。
例え才覚がなくとも、少しでも誰かの助けになるのなら。
例え仲間が。果てには自分の命が危ぶまれたって、私は、きっと。
「呪いのせいで自分の命が奪われても、同じことが言えるのか?」
今回はやけに饒舌だな、と頭の隅で考えながらも、私はその赤眼から目が離せないでいた。
自分の軸をしっかりと持っているこの男が、事の全てをこちら側に託して尋ねごとをする様子は、釈然としないけれど。
「勿論です。」
私は、迷わない。
「覚悟なら、とうの昔に決めました。」
自然と、恐怖とかいう感情は私の心から消えていた。
相手が誰とかではなく、ただ与えられた質問に真正面から答えたが故の心の落ち着きだった。
私は呪術師だ。非呪術師を助け、時には導く。
「…………。」
宿儺はやはり納得がいかなそうな顔で押し黙る。
視線を斜め下に捨てて、何か思いつめたように顎の辺りをさすった。
どうして、宿儺はそこまで私に呪術師を辞めさせたいのだろうか。
なんて、聞ける筈もないんだけど。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時