12. ページ14
.
夢の中で殺される瞬間に目を覚ますような、一種の覚醒を味わった。
「っ、……!」
解放された首元。生存本能のままに肺いっぱい空気を吸えば、一度に乾いてしまった喉が咳を促す。
色付いた世界。新鮮な空気。
悠仁君と入れ替わったのだと気づいたのは、この世界を余すことなく味わって数秒後の事だった。
「…………何よ、あいつ。」
自ずと握った拳に力が篭もる。
呪術師を辞めろ、だなんて冗談じゃない。
お前のせいで苦しんでいる人がいるのに。
お前のせいで奪われた命があるのに。
お前の、せいで。
「……。」
零れそうになった心の声を、後一歩のところで腹の底に沈める。
今や私の心の中は私だけのものでは無いのだ。万が一この独り言を聞かれていたら、また戻った時が大変だろう。
……そう言えば、入れ替わったのか。
やはり他人の体というのはどうも慣れない。当たり前か。
最初に目を覚ました時から視界にチラついていたノートと、そこに綴られた悠仁君の文字に目を通す。
一文目には『橘へ』との書き出しがあり、その下は要約すると以下のような感じ。
一つ、取り敢えず現状を打開する方法を自分も探してみるということ。
一つ、毎日風呂を済ませた後から寝るまでの間は私に体を明け渡してくれるということ。
本来、勝手に入り込んでいるのは私なのだからそんな必要は無いのに。
本当にどこまでも優しいな、彼は。
『お互い大変だけど、頑張ろう!』
「は〜……、良い子過ぎない?」
私のピンチが迫っていたからか、最後になるにつれて殴り書きになる字。
……悠仁君の体に入れたのは嬉しいけど、直接話せないのは残念だな。
部屋を見渡す。
姿見に映る、冴えない悠仁君の顔。
額にはびっしょりと汗をかいていて、まさに悪夢から覚めたようなその姿が、少し、悲しくて。
触れる。
「……うん、笑顔の方がいいよね。」
いつも見ている、私の大好きな彼の笑顔を真似てみる。
彼の笑顔は見た人までも巻き込んでしまうから不思議なものだ。
「あ、そうだ。」
笑顔を絶やさぬように、机の上に放り出されていた悠仁君のスマホで自分を写した。
今度自分のスマホを病院に取りに行って、データを移せばいいんだ。……我ながらちょっと犯罪的だが。
ふふ、と頬が綻ぶ。
と同時、部屋の扉を叩く音と、大好きな二人の声が耳をついたのだ。
.
1627人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時