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「──下らん」
積み重なる沈黙に嫌気がさした頃になって、宿儺が一言そう呟いた。
「ただ与えられた才に託けて生き様を決めるお前にも、お前のような弱者が呪術師として認められている世間にも虫唾が走る。」
ピリピリと空気が色を変える。
息を吸うことさえ躊躇ってしまうような緊張感が纏わりつく。
「──呪術師なんて辞めてしまえ。」
怒りだなんて安いものじゃない。
腹の底から湧き上がって仕方ない、形容し難い闇のように黒い負の感情だった。
理解が出来なかった。したくもなかった。
私に才能がないことは知っている。私よりも強い人間なんか沢山いるし、この仕事柄自分の両手からは零れ落ちる命の方が多かった。
それでも。いや、だからこそ、だ。
「……あなたの、せいでしょう。」
「は?」
「全部、全部貴方達呪いのせいじゃないですか。」
目の前で命を落としたあの人も。
今もどこか苦しんでいるその人も。
そして、先の未来、死刑が決まっている悠仁君だって。
「貴方だって、昔は人間だったんでしょう……?」
両面宿儺。
上古、仁徳天皇の時代に存在したと言われている仮想の鬼神。
実在した、人間だ。
「何で人を苦しめるんですか。」
ずっとずっと、考えていたこと。
「愛してくれた人は……、幸せにしたい人はいなかったんですか。」
何故、“呪い”だけが形となって現れているのだろう。
「貴方は、一体、何を、」
「──黙れ」
途端、世界が廻る。
背後に水を感じて見上げる宿儺の顔。
今までの中で一番暗く、低いその声に相応しい。瞳に映すだけでこの先の未来をいっぺんに呪われてしまいそうな、そんな表情で。
首元にかけられた手がギリギリと音を立てる。
酸素が脳に足りない。バタバタと動かす手足は、次第に力を無くしていく。
「非力だなぁ、人間。」
「……っ、……」
「素の力でさえ俺には敵わんのだ。そんなお前が呪術師?笑わせるな。」
悔しい。
ただ、悔しかったのだ。
「もう一度言う。呪術師を辞めろ、今、すぐに。」
締める力が強くなる。辞めると言わなければ絞め殺すつもりなのだろうか。
「……やめ、ないっ」
「……お前」
「呪いで苦しむ人がいる限り、私は辞めない。」
一気に締まる首元。意識が霞む。
私の下した決断に、間違いは無いはずだ。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時