S.tiger【病系短編集】11

・ ページ8

宮「…んぅ、」


てんかんの発作を起こした後は、たいていボーっとしていてあまり会話ができない。でも今日の海斗は、何度かまばたきをするとすぐにしっかりした顔つきになった。



宮「…っ、ぅ、うぅ、」


海斗の体がこわばって、痩せた胸が上下する。いつも以上に話しにくそうなのに、何かを伝えようと必死だ。



宮「っ…！じょ、ぉ、おたんじょ、っめ、でとっ」

閑「え、誕生日？俺？」

宮「しず、…っあ、あーり、あと。い、っしに、い、え、くれ、て」


一緒にいてくれて、ありがとう。確かに海斗と練習したセリフだ。俺はハッとして、スマホを取り出した。



閑「……8月、10日。」


すっかり忘れていた。今日は俺の２７歳の誕生日だ。


閑「で、でも、海斗、デイサービスの人って言ってたよな？」

宮「っうぅ、…さーう、らい、じゅ、」

閑「サプライズ、？」


海斗が満足そうに１つまばたきをする。


……ていうことは、誕生日を祝いたい相手がデイサービスの人っていうのは、海斗のはったりだったのか。誰から教わったんだろう。俺が早とちりしたせいもあるけれど、見事に一杯食わされた。




宮「…っあ、と、」


すぅ、と息を吸って、海斗が急に口をパクパクさせる。きっと、今から話すことは海斗が一番伝えたいことだ。俺は姿勢を正して海斗の言葉を待った。



宮「…っ！っま、ぅう、うま、れてく、れぇ、ありぁ、とう！」


生まれてくれてありがとう。練習の時には、なかったセリフだ。


閑「…これも、サプライズ？」

宮「んっ！」


大仕事を終えて満足そうに笑う海斗の顔が、涙でぼやけてくる。泣き顔を見られたくなくて、俺は海斗を正面から抱きしめた。



宮「…っしず、ぁい、だぁ、い、すきっ！」

閑「っ俺も、大好きだよ。」


涙が出るくらい幸せな気持ちになることって、本当にあるんだ。



誕生日おめでとう。一緒にいてくれてありがとう。生まれてくれてありがとう。


たった３つの言葉が、それを一生懸命伝えてくれた海斗の気持ちが、愛おしくてたまらなかった。




閑「海斗、ありがとう。最っ高の誕生日になったよ。」



どんな物より美しくて、どんな花束より温かい。俺は目を閉じて、流れる涙の温度を頬で感じていた。















「涙の花束」

○鏡の向こうの世界→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す