S.tiger【病系短編集】11

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Side海人


海「お、ぇの、あーにんさ、まっいぇ、うあい、の！ねうの、ようえ、あぇあ、うい。」

元「そうなん？俺の担任はマジで放置よ。俺が授業中寝てても、なんも言わねえし。」



涼しい顔でそう言うと、俺の左隣を歩いていた元太が俺の腕をつかんで自分の方に引き寄せた。半分よろけるような感じで元太の方に体を寄せた瞬間、右半身に冷たい風を感じる。



元「ごめんごめん、チャリ来たからさ。」


俺の右側をすり抜けて走り去るおっさんのチャリを見ながら、元太がパッと俺の腕を離した。俺も、風を切って遠ざかっていくチャリをぼんやりと見つめる。





チリンチリン


きっと、さっきのチャリはそんな感じの音を鳴らしていたんだろう。実際に聞いたことはないけど。本で読んだ通りの音なら、きっとこんな感じの音だ。




俺は、生まれつき耳が聞こえない。だから、自転車の音も川が流れる音もわからない。


…もちろん、自分の声も。




聴覚支援学校の高等部に通う俺は、普段は手話でコミュニケーションをとる。でも、一応話す訓練も受けているから、手話を使わない友達(そんなの元太くらいだけど)といるときは声を出して話す。



話すっていっても、多分まともな発音は全然出来ていないはずだ。だって、元太以外の人には俺の言うことが全然伝わらないし。





「俺の担任さ、マジでうざいの！寝てると、秒で当てられるし。」


俺がさっき言ったこの言葉は、どんな風に聞こえたんだろう。





海「…なあ。お前、なっえ、わかんの？おえの、いっえうこお。」

元「だから、フィーリングだって！お前の言うことくらい、大体わかる！」


小さい頃から、全然変わらない元太の答え。元太いわく、俺の話すことは直感で分かるらしく、昔から元太に話が通じなかったことは一度もない。




海「…すえぇなあ。」

元「すげえだろ、俺。」


俺の制服より少しだけおしゃれなブレザーに包まれた元太の肩が、楽しそうに揺れた。

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