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元「あっ、パパ。」
病室に戻ると、元太が身を乗り出すようにベッドから体を起こした。
子供は、大人の変化に敏感だ。松倉さんに止められながらも、元太は心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
如「…松倉さん、それお借りしてもいいですか?」
倉「え…、いいです、けど。」
戸惑いながら、松倉さんが絵本を差し出してくる。病室を飛び出した時、俺が松倉さんにつき返してしまった絵本だ。
如「元太に、読んであげたくて。」
倉「……そう、ですか。」
俺が笑顔で頷くと、心配そうだった松倉さんの表情が徐々に明るくなっていった。俺が読むよりよっぽど喜びますよ、と言うと、松倉さんは静かに病室を出ていった。
ふぅ、と息を吐いて絵本を開く。プレイルームから拝借したらしいこの本は、家にあるそれとは違ってもうボロボロ。それでも、目に飛び込んでくる文章も、絵も、すべてが懐かしかった。
妻のような、温かい声ではない。でも、俺は丁寧に読み聞かせた。途中涙で文字がぼやけても、声が震えそうになっても、読み続けた。
如「……あれ、元太?」
あと1ページで絵本が終わり、というところで顔を上げると、元太が静かな寝息を立てていた。眠れたことに対する安心と、ほんの少しの残念な気持ちが同時に胸をよぎる。
如「…また、途中で寝ちゃった。」
最後の1ページには、表紙と同じような虹が大きく描かれている。最後の一文を目で追って、俺は静かに本を閉じた。
母親譲りのきれいな黒髪をなでると、眠っている元太の口角が少しだけ上がる。幼い寝顔が愛しくてたまらなくて、俺は小さな体を抱きしめた。
すぅ、と息を吸う。鮮やかな虹を頭の中で描きながら、俺は8文字の言葉をそっと舌の上で転がした。
―めでたし、めでたし。
「思い出を抱きしめて」fin.
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おさと(プロフ) - る - るさん» る-る様、リクエストありがとうございます!またリクエストいただけたこと、いつもお読みいただけていること、本当に嬉しいです😭長くお待たせしてしまうかもしれませんが、しっかり書かせていただきます、! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - そらさん» そら様、コメントありがとうございます!またリクエストをいただけるなんて、本当に嬉しいです😭続編、書かせていただけるのが今から楽しみです!またまたお待たせしてしまいますが、気長にお待ちいただけますと幸いに存じます! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
る - る(プロフ) - いつも本当に楽しく読ませて頂いています; ; リクエストなのですが、リアル設定で松倉くんが仕事に疲れ塞ぎ込んでしまっていってしまい段々と仕事にも来なくなりそこで全メンバーが松倉君を助けるお話が読みたいです。分かりにくくて申し訳ないです.... (2022年8月27日 13時) (レス) id: 6d6ceb074c (このIDを非表示/違反報告)
そら - →病気は悪くなるばかり。弱っていく青を見て桃は自信をなくす。そんな姿を見て白も昔を思い出し、桃だからできることがあると励ます。 (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
そら - たくさんリクエストある中恐縮ですが、またまたリクエストさせていただいてもよろしいですか。「夢のかたち」の続編で、研修医の桃さんが大きな病気と闘う青の担当に。頑張る青の姿を子どもの頃の自分と重ねてなんとか治してあげたいと奮闘するけど→ (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年8月10日 19時