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如「…松倉さんが、読んでやってください。」
絞り出すように言うと、俺は手の中の絵本を松倉さんに押し返して病室を飛び出した。
如「…はぁ、はぁ、」
通路にあるソファに腰かけた瞬間、涙があふれ出てくる。唇をかんで俯いていると、視界の端で白い布が揺れた。
龍「川島さん、落ち着いてください。体の力抜いて、ゆっくり息しましょう。」
穏やかな声でそう言うと、七五三掛先生が俺の前にしゃがんだ。唇をかみすぎたんだろうか。柔らかい視線に包まれた瞬間、口の中に血の味が広がる。
如「……ごめんなさいっ、」
龍「どうして、川島さんが謝るんですか?」
如「俺、ダメな父親なんです。まだ妻のことが忘れられないなんて、寂しいなんて、最悪でしょう?元太には、もう俺しかいないのに。俺は早く前を向いて、元太を守らなきゃ、強い父親にならなくちゃいけないのにっ…」
情けなさと恥ずかしさでいっぱいになって、思わず両手で顔を覆う。それでも、手の隙間から涙がこぼれ落ちた。
龍「…誰も、思ってませんよ。強くいろだなんて、1人で元太くんを守れなんて、川島さんの周りはきっと1ミリも思ってません。頼ってほしくてしょうがないですよ、俺たちは。俺たちはいつだって、助ける気満々で腕まくりしてます。」
力強い声とともに、がっしりと肩をつかまれる。先生の顔を見た瞬間、口の中の血の味が引いて海苔の香ばしさが広がった。
ふっくらしたお米に、塩気の強い鮭。いつか中村くんがくれた、おにぎりの味がよみがえる。
龍「……それから、前を向く必要もありません。奥さんを思い出すことが後ろを向くことだって言うんなら、前なんか向かないでください。」
如「え…」
龍「だって、奥さんが絵本を読んでくれた記憶は今も元太くんを励ましてるでしょ?泣いたっていいんです。思い出して辛いこともあるかもしれないけど、忘れちゃうより100倍ましです。だって、」
―世界で一番、愛してる人の記憶じゃないですか。
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おさと(プロフ) - る - るさん» る-る様、リクエストありがとうございます!またリクエストいただけたこと、いつもお読みいただけていること、本当に嬉しいです😭長くお待たせしてしまうかもしれませんが、しっかり書かせていただきます、! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - そらさん» そら様、コメントありがとうございます!またリクエストをいただけるなんて、本当に嬉しいです😭続編、書かせていただけるのが今から楽しみです!またまたお待たせしてしまいますが、気長にお待ちいただけますと幸いに存じます! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
る - る(プロフ) - いつも本当に楽しく読ませて頂いています; ; リクエストなのですが、リアル設定で松倉くんが仕事に疲れ塞ぎ込んでしまっていってしまい段々と仕事にも来なくなりそこで全メンバーが松倉君を助けるお話が読みたいです。分かりにくくて申し訳ないです.... (2022年8月27日 13時) (レス) id: 6d6ceb074c (このIDを非表示/違反報告)
そら - →病気は悪くなるばかり。弱っていく青を見て桃は自信をなくす。そんな姿を見て白も昔を思い出し、桃だからできることがあると励ます。 (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
そら - たくさんリクエストある中恐縮ですが、またまたリクエストさせていただいてもよろしいですか。「夢のかたち」の続編で、研修医の桃さんが大きな病気と闘う青の担当に。頑張る青の姿を子どもの頃の自分と重ねてなんとか治してあげたいと奮闘するけど→ (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年8月10日 19時