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如「……え!?熱?元太が?」
つい大きな声を出してしまって、慌てて周囲を見回す。でも、昼休みが終わったばかりの会社の通路には、ほとんど人はいなかった。
軽く咳払いをして、もう一度スマホを耳に当てる。
如「何度くらいの熱なんでしょうか…?」
『実は…38度3分、なんです。』
声を潜めた俺にならうように、スマホから聞こえる元太の担任の先生の声が小さくなる。それでも確かに聞こえた数字に、俺は途方に暮れてしまった。
まさか、こんなことになるなんて。
今朝のドタバタも、何とか乗り越えて出社。眠い目を擦りながら午前の業務を終えて、さあ午後も頑張ろうと気合を入れたタイミングで小学校からかかってきた電話は、予想外の元太の体調不良を告げるものだった。
『…お迎え、お願いできますか?』
如「もちろんです。すぐ向かいます。」
きっぱりと言って電話を切ったはいいものの、動揺を抑えきれない。
息子の元太は、重い喘息を抱えている。高熱は危険だ。夏休み前にも体調を崩して入院になったのに、また入院になったりしたらどうしよう……。
嫌な想像を頭の中で巡らせながら自分の席に戻ると、後輩の中村くんが心配そうに声をかけてきた。
海「何かありました?」
如「…あ、えっと、息子が熱を出したって、」
海「え、マジっすか?じゃあ早く行った方がいいですね。何かやっといた方がいいこと、あります?」
中村くんに言われて、ハッとする。そういえば、会議の資料を今日中に作るんだった。でも、これを彼に任せるのは…、
海「それ、預かります。大丈夫ですよ、わかんなかったら適当に聞きながらやるんで。」
それから、と中村くんが袋を差し出してくる。
海「川島さん、最近ちゃんと食ってないっすよね?ダメですよ、パパが倒れたらどうするんですか。」
力強く言い切るその顔は、今まで見てきた彼の表情の中で一番頼もしい顔だった。
…そうか、彼も知ってるんだ。俺が妻を亡くして、1人で息子を育てていることを。後輩に助けられるのは情けないけれど、温かい気づかいに救われたような気持になる。
如「…ありがとう。」
おにぎりの入った袋を抱きしめて、俺は頭を下げた。
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おさと(プロフ) - る - るさん» る-る様、リクエストありがとうございます!またリクエストいただけたこと、いつもお読みいただけていること、本当に嬉しいです😭長くお待たせしてしまうかもしれませんが、しっかり書かせていただきます、! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - そらさん» そら様、コメントありがとうございます!またリクエストをいただけるなんて、本当に嬉しいです😭続編、書かせていただけるのが今から楽しみです!またまたお待たせしてしまいますが、気長にお待ちいただけますと幸いに存じます! (2022年8月27日 17時) (レス) id: ede36f8a86 (このIDを非表示/違反報告)
る - る(プロフ) - いつも本当に楽しく読ませて頂いています; ; リクエストなのですが、リアル設定で松倉くんが仕事に疲れ塞ぎ込んでしまっていってしまい段々と仕事にも来なくなりそこで全メンバーが松倉君を助けるお話が読みたいです。分かりにくくて申し訳ないです.... (2022年8月27日 13時) (レス) id: 6d6ceb074c (このIDを非表示/違反報告)
そら - →病気は悪くなるばかり。弱っていく青を見て桃は自信をなくす。そんな姿を見て白も昔を思い出し、桃だからできることがあると励ます。 (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
そら - たくさんリクエストある中恐縮ですが、またまたリクエストさせていただいてもよろしいですか。「夢のかたち」の続編で、研修医の桃さんが大きな病気と闘う青の担当に。頑張る青の姿を子どもの頃の自分と重ねてなんとか治してあげたいと奮闘するけど→ (2022年8月25日 20時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年8月10日 19時