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泣き続けてどれくらい経ったのだろうか。
前田さんは何も言わずただ抱き締めてくれている。
否、姿は見えないので、抱き締められているかもわからないが、
私の上半身は温かい空気で包まれていて、
何故か父と母と過ごした幼い日々を思い出していた。
・
前田「だいぶ、落ち着きましたか?」
『…はい』
しゃくり上げていた息も徐々にいつものように戻り、
今はただ泣いた後特有の倦怠感と、まぶたの重さだけが残っていた。
前田「少し、眠りますか?先ほども眠ってましたが、泣くとお疲れになるでしょう?僕は山姥切さんと夕餉を作って参りますね」
神様に夕飯の用意をさせるなんて失礼が過ぎると思ったが、
この状態で夕飯を作れば、失礼では済まされないご飯を食させてしまうことは、火を見るよりも明らかだった。
『ほんとに、すみません…』
大人しく前田さんの言うことに従うことにする。
夕飯の片付けは私にやらせてもらおう。
前田「では、行ってきますね」
姿が見えないのは何と言っても不便で、
私の周りを包んでいた温かい空気がなくなった途端、独り取り残されたような不安に駆られる。
前田さんの刀がふわりと宙に浮き、襖の方へ向かっていく。
刀は最小限の音を立てて襖の奥へと姿を消した。
それを見届けてから、すぐに布団に潜り込む。
さっきの温もりが逃げてしまわないように。
閉じ込めておかなくちゃ。
…不思議なものだ。
昨日まで、一人暮らししてたのに。
叔母さんの家を出た時は、嬉しくて嬉しくてしかたなかったのに。
…‘‘独り’’なんてとっくの昔に慣れたはずなのに。
『寂しいなあ…』
布団の中でポツリと呟くと、やっと止まったはずの涙がまたポロポロと出てきた。
泣いたのなんて、いつぶりだろう。
温もりに触れたのなんて、いつぶりだろう。
大好きなのに、怖くなんてないはずなのに、
姿を見ることができないなんて、なんて残酷なんだろう。
ああ、神様。
早く、山姥切さんと前田さんに会わせてください。
目と目を合わせて、笑わせてください。
もう、それ以上何も望まない。
だから、ねえ…神様。
フワフワと宙を歩くような感覚で神様にお願いしながら、私はまた眠りの世界へと誘われていった。
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ユウカ(プロフ) - 愁(しゅう)さん» 初期刀まんばちゃんなんですね!私は宮崎と同じむっちゃんです!笑 初期刀って愛着湧いちゃいますよね〜(*^^*) (2016年12月6日 8時) (レス) id: fc6ad45da9 (このIDを非表示/違反報告)
ユウカ(プロフ) - 花日松さん» いえいえこちらこそわかりにくい表現をしてしまって申し訳ありませんでした!ご丁寧に返信までありがとうございます! (2016年12月6日 8時) (レス) id: fc6ad45da9 (このIDを非表示/違反報告)
愁(しゅう) - 僕と初鍛刀が同じなことに悶えました← (2016年12月5日 22時) (レス) id: 47c2114946 (このIDを非表示/違反報告)
花日松(プロフ) - ユウカさん» そうだったんですか!すみませんちゃんと見てなくて! (2016年12月5日 13時) (レス) id: 6d8f5ab43f (このIDを非表示/違反報告)
ユウカ(プロフ) - 花日松さん» コメントありがとうございます!冷却材のほうは一応31話のほうで書いているのですが、作者の解釈で大変わかりにくい表記になっていますね…。申し訳ありません!今後はわかりやすいように尽力します!更新頑張らせて頂きます! (2016年12月5日 12時) (レス) id: 090ea0c50e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユウカ | 作成日時:2015年9月3日 21時