”真面目”な隊員〈モモハ〉 ページ5
「今日は新月か……」
そう呟いては人通りの中足を止め、空を見上げる青年。
手に持っていた本を懐にしまうと、ふと喧騒の中から姿を眩ませる。真っ直ぐに向かうは、人気の薄れた裏路地。他の箇所はなんとか店や家から漏れる光で辺りがわかるというのに、今日の月の様子も相まって、そこはまさに黒一色であった。
そんな誰も居ないところに、彼は一体何をしに来たのか。
「此処がいいな」
よし、と意気込む彼の齢は17程。一見書生と思わせる出で立ちだが、その胸元には”夜桜災鬼殲滅部隊”だと一目で認識させる、桜の紋章が装着されていた。
稲荷は暗闇の中立ち止まると、ふと振袖を漁り始める。現れるは簡易式の灯篭と、燐寸。彼は慣れた手つきで燐寸を擦って点火させれば、流れるような手つきで灯篭に灯りを燈し、ぶんぶんと振って消す。それを置けば、先ほどの本を再度取り出し、灯りで内容が見えるよう照らし始めた。
「まったく、せっかく善い感じの官能本を見つけたというのに。同業者の前だとやたら注意されたりなんだりで気が休まらない。久方ぶりの当たりはゆっくりと見分したいのだが……まさか、生憎の新月とはね、文字が見えない」
本当は仕事で使うべき灯篭をこんな理由で費やすのも、少しばかり奇天烈な彼にとっては十二分に大切なことなのである。後で仲間に怒られても、軽く流せればそれでよい。あるいは災鬼の一、二匹倒してから帰るとか。
そんなことを頭の隅で考えつつ、意識はもろ書物の内容に集中している。よって、通りすがりの村人に松明で照らされても、直ぐに反応できなかった。
少し遅れた拍子で肩を揺らし、相手伺えば、村人はどうやらうら若き乙女のよう。怪訝そうに此方を見やっている。
「あの、軍人のお方とお見受けいたしますが……一体、何を?」
稲荷はきょとんとした顔でその問を投げかけられるも、直後にああ、と口角上げて応じた。
「とある任務でね。あとは秘密。ね」
そうでまかせを紡いで人差し指を自身の唇に当てれば、邪魔をしたと思った少女は慌てて謝り、その場を後にした。
(官能がわからなそうな御仁は、煙に巻くのが得策だ)
そう改めて思っては、再び書物へと顔を向けた稲荷であった。
これでも本日の仕事はキチンと熟した、”真面目”な隊員なのである。
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詩学音丸(プロフ) - 更新終わりましたー! (2018年10月10日 12時) (レス) id: b3b81574c1 (このIDを非表示/違反報告)
詩学音丸(プロフ) - 更新させて頂きます! (2018年10月10日 12時) (レス) id: b3b81574c1 (このIDを非表示/違反報告)
瑠飴 - 夜狐さん» 了解です! (2018年10月8日 20時) (レス) id: 015f09e847 (このIDを非表示/違反報告)
夜狐(プロフ) - 瑠飴さん» 大丈夫ですよー、以後気をつけてくださいねー (2018年10月7日 13時) (レス) id: dee1d215ab (このIDを非表示/違反報告)
瑠飴 - 夜狐さん» アッアッごめんなさい忘れてました() (2018年10月7日 13時) (レス) id: 015f09e847 (このIDを非表示/違反報告)
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