〇≠無の証明Ⅳ－４ (ページ36)

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櫻井さんが言葉を続ける。

「今回の件ですが、河東は邨田さんに好意を抱いていたようです、裏切られたと知って殺害し工事のどさくさに紛れて埋めた」
「……」
「今回バレそうになったから工事の邪魔をした。悪霊は井田蔵医師や基田野さんの霊も喰って強大になったんでしょう、大変でした」
「……」
「ああ、信じられなくてもいいですよ、僕も自分で何を言ってるのかと馬鹿馬鹿しくなるくらいですから」

院長が黙り込んで、中間さんが、大きくため息を吐きながら宙を見上げた。

「だから、純粋に愛し合ってる恋人や、人を疑わない性格の人や、嫉妬心とは無関係な人には悪霊の影響は受けなかったのですか？」
中間さんがそう言った。

「……恐らく」

櫻井さんが意味深に私を見た。

それを見た松本さんも私を見て薄く笑った。

何！顔が熱い！ムカつく！

「旧館を取り壊そうとしたら邪魔が入るのは人の仕業だった、しかも毎回違う人間でした。河東もあと少し遅かったら自ら死を選んでいたのだと思います」

櫻井さんが一度言葉を切った。

「そして、また悪霊が誰かの心を蝕んで、人を殺したかもしれない。工事が途中だからまだ乾いていないコンクリートなんかを流し込めば遺体は隠せるし」
櫻井さんが苦笑した。

「でも愛する人に愛されているとわかったら、虫はその人の中に居られないようなんです……簡単な悪霊退散はその方法だと思います」

櫻井さんをチラッと見たら櫻井さんが困ったように笑ってこめかみを人差し指でポリポリと掻いた。

「恐らく、悪霊の本体は今回旧館が倒壊した時に一緒に消えたと思います。しかし虫は全部消えたかどうかを僕らは調べる方法がない」
「……」
「覚えておいてください、次は自分かもしれないと」
「……」

その時。
中間さんの携帯が鳴った。

「もしもし……ああ、そうですか。やはり……井田蔵験太郎と行方不明の看護師でしたか」

櫻井さんが目を上げた。

「基田野とその看護師の不倫関係は裏付けが取れた？」
「はい」
「院長、捜査が終われば工事は再開できますよ。僕は駐車場とかにすべきと思いますけどね」

櫻井さんが困ったように笑ってそう言った。

「そうですね」
院長もそう言った。

「あとのことは公安と京都府警におまかせすることにして我々は退散いたます」
櫻井さんが頭を下げた。

「お世話になりました……」
院長が頭を下げた。

私達の仕事は終わった。
呆気なく。終わった。