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「そこからです、呪いの発動は。信じなくてもいいので聞いてもらえますか」
「はい」
「その殺人鬼の霊は人の心を蝕むタイプの悪霊となった。愛する人が自分に振り向いてくれない、しかも裏切ったと思い込んだ人間の感情に入り込み支配するタイプだった」
「つまり？」
「愛する人が自分を裏切った、と思った瞬間のその隙に……その人間の腹の中に悪霊となって棲み付く、それを仮に『虫』と呼びます」
愛する人ってオイ！
と激しく突っ込みたいけどとりあえず抑える。
話をまず聞こう。それからだ。
「そしてキッカケは、恐らく工事。工事が始まると悪霊の虫がザワザワと動き出すんだと思うんです」
「はぁ……」
「過去の成功体験から、裏切った愛する人を殺して、工事中の旧館に埋めてしまおう……今ならバレない、という思考になるのかもしれない」
「……」
「その時、誰かと不倫していたらしい看護師が行方不明になった。恐らくその恋人に殺されて埋められた」
「犯人は？」
「過去をトレースするなら、次の工事が再開したときに邪魔をして、逃げ切れないと悟って自ら死を選んだ人が犯人だと思われます」
「……うちに出入りしていた基田野さんですか」
「はい」
櫻井さんが平然とそう言った。
「あの旧館から見つかったご遺体は、井田蔵験太郎、その行方不明の看護師のAさん、そして今回の……邨田さんだと思います」
中間さんの、ああ、という声が漏れた。
「今回の工事を邪魔したのは河東です、邨田さんを殺して埋めたのがバレるのが嫌だったんでしょうね」
「……」
「何故か悪霊は人を殺すとき鎌にこだわる。そして自ら死をもって清算しようとする。それらは悪霊が感情を支配した結果と推理します」
「でもまさかそんなこと」
「ない、と言えますか？」
櫻井さんが、じっと院長を見た。
「え」
「院長」
「……」
「鎌を隠し持っていませんか？」
櫻井さんの言葉にみんなが一斉にギョッとした。
……A？院長の声が聞こえた？デスクの一番下の引き出し。
……聞こえた。新聞紙に包まれた鎌があるのね。
私が迷わず鎌を探し当てたのを見て院長が激しく狼狽した。
「院長の腹の中にも虫が棲んでいただけです。虫はもういません。だから大丈夫ですよ。ですがその鎌は預かります」
櫻井さんが淡々とそう言った。
「……あ」
「安心してください。僕らは不倫や鎌を持っているだけでは逮捕できません。でも気をつけて下さい」
櫻井さんの言葉に院長が項垂れた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年3月5日 16時
