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今回は私を掠めなかった。けど。
一気に力が抜けて膝から落ちる。
「あわわ、今だめ！」
櫻井さんが走ってきて私の手から鎌を奪い取る。
やばかった。
脱力してそのまま鎌を落とすとこだった。
この勢いなら首が落ちることはないだろうけど、首怪我するとこだった！
「大丈夫？」
「うん、鎌男は……」
私の背後に。
天気図の台風の形のような黒くて大きな塊が見えた。
その真ん中はブラックホールのように、吸い込まれそうな大きな穴。
その穴の中から、恨めしい、苦しい、つらい、もう嫌だ、という負の感情が聞こえてきた。
櫻井さんが眉をしかめる。
「ナニコレうるせえ！」
「これが、虫の正体？」
じわわ、とその輪郭が崩れていって、人の形に変わっていく。
上半身裸で、髪はボサボサで、目の下から薄汚い……返り血で茶色く汚れた布切れで顔を覆っている。
……鎌の男だ！
両手に鎌を持って、私達の前に立ち塞がった。
私と櫻井さんを見下ろす。
「鎌の男？」
櫻井さんが慌てて逃げようとして、あ、忘れてた！と言って、立てない私の襟首を掴んでひきずって間合いを取った。
ちょっと酷くないですか！
俺もAのことが好きって絶対嘘だ。
好きな女に対する守り方じゃない！
「あは！」
相葉さん！こんな時に笑うなんて酷い。
二宮さんが叫ぶ。
「式！」
ヒュウ、と音がして光が鎌の男に向かって飛ぶ。
跳ね返された。
「うっそ。臨兵闘者皆陣列在前！」
二宮さんが早九字を切って真ん中を手刀で切り裂く。
どん。
嫌な音がして鎌の男が膝をついた。
「見えないけど今どんな感じっ？」
二宮さんが聞く。
「なんかデッドボール喰らった感じ！消えない！」
松本さんが叫ぶ。
「ノウマクサマンダバザラダンカン！」
今度は不動明王の退魔法。
光が空を引き裂いて、鎌の男に当たったのに。
苦しそうに倒れて、よたよた、とまた立ち上がる。
「ニノ……こいつ……効かない」
「どうしよ、逃げる？」
松本さんと二宮さんが目を見合わせた。
「そこになんかいるの？」
大野さんが首を傾げる。
大野さんには鎌の男も二宮さんの光も全く見えないんだ、という衝撃で一瞬呆然となった。
「大野さん、助けてよ！」
二宮さんがそう言った。
スタスタスタと狭い踊り場の中を大野さんが歩いて鎌の男の方に近づいていく。
「危ないよ！」
私と松本さんが同時に叫んだら大野さんが振り返る。
「へ？でも、所詮霊でしょ」
そう言って、フフンと笑った。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年3月5日 16時
