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「オノマサトシくん！こっちにおいで！」
マサトシくんの名前を呼んで、なんの感触もないけど、手を引っ張った。
マサトシくんを連れたまま、窓から飛び出す。
少し高さがあって、飛び降りたらしりもちをついた。
「いた……」
目を上げる。
鎌の男が一瞬私達の方に来ようとして、バチッと静電気に触れたような仕草を見せた。
マサトシくんは！
周りを見る。
私のすぐ横に。
マサトシくんが、いた。
「お姉さん……」
「……あ」
「俺、外に出れたよお姉さん」
マサトシくんが、うわーん、って泣いた。
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
「俺な、カマキリ男が女の人をイジめてるとこ見てしもてん」
「……うん」
「そしたら、見たなー！って……池に突き落とされてん、ぎゅーって頭押さえられて、息苦しくなって……」
ああ、そうだったの。
そうだったの。
「気ぃついたら病院におってんけど、どうしてもお家に帰られへんかってん」
「そっか」
胸が苦しい。
ああ、でも、こうしていられない。
ちょうどその時。
傘をさして旧館の前に立ってる女の人の姿を見つけた。
おばあさんじゃない。
マサトシくんがその女の人に気づいた。
よろよろ、と立ち上がる。
うわああん、って大きな声で泣いて、走り出した。
その声にその女性が気づいた。
「あ！」
「おかあさん！！」
マサトシくんが転んだ。でもすぐ立ち上がって、その人の方に向かって走っていく。
「マサトシ！！」
女の人の叫び声。
「おかあさん！！」
マサトシくんがその人に飛びついた。
二人が抱き合った、その瞬間。
二人が光の粒になって、弾けて消えた。
……え。
門の外には人影もなく。
何事もなかったかのように、雨がザーザーと地面を叩きつける。
「マサトシくん……？」
呼びかけてみた。
けど、もう、返事はなくて。
「マサトシくん？」
会えたのかな。
あのオノさんは若い姿のままの生霊だった？
きっとずっとここに心を残して生きてたのかもしれない。
ちゃんとマサトシくんを帰してあげられなかったかもしれないけど、マサトシくんはもう家に帰ってきてますよって。
松本さんなら見えるからオノさんに教えてあげられるだろう。
気づいたら雨と涙で前がぼやけてなんにも見えなくて、慌ててジャージの袖で拭う。
こうしちゃいられない。
霊の鎌の男は出てこれないかもしれないけど、あの仕掛けを作った奴は人間だから外にも危険が潜んでいる。
注意深く、立ち上がる。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年3月5日 16時
