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両親がおろおろしてる気配がする。
おにいちゃんが、私の頭をポンポンした。
「……泣かせちゃった……」
おにいちゃんが、ため息を吐いた。
私の泣き声だけが、響くリビング。誰も何も言わない。
「お父さん、今月の給料で大学の学費、全額返せると思う」
「うん」
「大学の時の貯金とか合わせても、やっぱ３年かかった、思ったより遅くなってごめんなさい」
「いや、いいんだ、そんなことは」
「それと養子縁組、保留にしてくれてた件」
え？
思わずおにいちゃんの横顔を見る。
「うん」
「養子になったら気兼ねなく学費も使えるだろうからって言ってくれたけど、やっぱり……Aとは、他人でいたかったというか」
「……」
「でも、借金返すまではさすがに偉そうなこと言えなくて」
「……」
皆が黙って聞いてる。
「ちょっとね、仕事でへこたれることもあったりして……自信なくて……頑張れない時期もあったから家から疎遠になっててごめん」
「……和」
おばさんの悲しそうな声。
「A」
おにいちゃんが、優しい声で、ささやく。
「あのさ。養子縁組の話を保留にしてくれてね、他人でしかない俺を信用して学費を出してくれるって言うお父さんに約束した」
「うん」
「Aとは、会わない、って。だって俺は本気だったとしても、お前はもしかしたら本気じゃない可能性だって大いにあったわけでさ」
「高校生の恋愛なんて……そう見えるかも、うん」
おにいちゃんが、ふ、っと吐息だけで笑う。
「そう。離れ離れになったらすぐ冷める可能性だってあったでしょ、恋愛なんて勘違いの連続なんだしね」
「うん」
「お父さんの立場で考えたら、もしその場の勢いだけで付き合って、それで普通の恋人みたいに別れたりなんかされたらたまったもんじゃないよね」
お父さんが苦笑した。
「あったかい家庭をこれから築いていきたいのに、若気の至りなんかでギクシャクしてる兄妹なんて最悪だ」
「そうだね」
「だから、言い方悪いけど、俺らは試されてたの」
「……」
おにいちゃんが、はは、って疲れたみたいに笑う。
「余計ギクシャクした」
「したね」
おにいちゃんが笑った。
「Aの様子が変だってことは聞いてた」
「……」
「で、お父さんは、思い出したんだよね」
おにいちゃんがお父さんを見た。
「この試験期間に、Aがいなくなるかもしれない、……永遠に、って」
「うん」
お父さんが、静かにうなづいた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
