116 ページ36
4月。
おにいちゃんは、誰でも知ってる、大手電機メーカーに採用された。
電車や造船の工場を動かしたり、果ては電力発電なんかを動かす、そこがダウンしたら全部止まっちゃう中央制御室みたいなとこの、エンジニアさん。
そういえば機械に強いというか、プログラムとかそういうの興味あるみたいだった。
音楽が好きだけど、音楽を作るためにカチャカチャやってるほうが楽しそうだった。
おにいちゃんの就職先を聞いた人たちが、凄いわね、かっこいいわねって言った。
出身大学とか就職先で人間性が判断できるわけもないのに、ある程度評価されてしまうこの世の中はおかしい。
けど。
なんにも情報がない人を目の前に置いて、信用できるか判断できるわけがないんだから、それも仕方ないと思えるくらい大人になった。
一目見た途端、好きになるなんて危険すぎる。
けど、それが許された幼い時期には恐らく本能的な勘が発達してたんだ。
今なら、絶対一目惚れなんてできないよ。
仕事ができて、見た目が可愛くて麗しくて、甘い声で、優しくて、頼り甲斐があって？
……おにいちゃんは、誰が見ても完璧だ。
おにいちゃんじゃなかったら、
もう近づけない程。
兄妹で良かったのかもしれない。
結婚しても、離婚するかもしれないけど、兄妹なら別れない。
側で、幸せを、見ていられる。
そう思えば妹のポジションも悪くない。
おにいちゃんの子どもを溺愛しても変だとは思われないし。
もし許されるなら、老後、近くに住めればいいなぁ、なんて。
遠い遠い先なら許されるかも。
いつか、おにいちゃんが、白いタキシードを着て、その横にあのミントグリーンのカーデを着たあの人が横にいて？
私は、それを一番近くで見る。
その覚悟は、できた。
おにいちゃんと離れて暮らした3年間は、いい意味で諦めるのにちょうどいい時間になった。
「A、就職どうするんだ？」
お父さんが電話で、私に聞いてきた。
「戻っておいで」
「帰りたくない……」
「……それは、どうして」
「あ、お父さん！就職、ほぼ決まったよ、次面接なの」
「……どこに」
「出版社。食べ物を扱う雑誌が主なの。フードコーディネーターとか、パソコンとか漢字検定とか受けまくってたのが活きたみたい」
「そっか」
「……お母さんは元気？」
「うん」
「ごめんね」
お父さんの深い深い溜息が聞こえた。
幸せになれない娘でごめんなさい。
私は親不孝だ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4720人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
