110 ページ30
これは、多分、やり直し。
おにいちゃんが高２で、私が高１の２月。
まだ、兄妹じゃなかったころ。
あの時にもしおにいちゃんが私の声をかけていたら。
私たちの未来は、今と全然違ったはずなんだ。
やり直したい。
ずっとそう思ってた。
やり直したい。
無理だよ。
わかってる。
だから、今だけ。
今だけ私達を見逃して。
「彼氏、いる？」
「いません」
「……そう」
「でも、気になる人はいて」
「……」
おにいちゃんが、は、って短く笑った。
「初めて二宮先輩と会ったとき、あの琥珀色の目が、こっち向かないかなあって思って」
「……え？」
「初めて目が合ったとき、懐かしい気がしました、会いたかったって思った」
「……」
「絶対仲良くなれる、そんな気がしてました……なのにどうして私たち他人みたいな顔ですれ違ってるんだろうって」
「わかるよ、同じだよ」
「……私、二宮先輩が……」
おにいちゃんが、はあ、ってまた、白いため息を吐いた。
「俺、初めて会った時から、ずっと、君のこと好きだった」
久々に、目が合ったね、おにいちゃん。
つうっと、目から熱い涙が零れ落ちた。
おにいちゃんの指が、私の頬に触れた。
「どうして泣くの」
「これから二人に起こる悲しい運命を思うと、胸が苦しい」
おにいちゃんが、私の手を握りしめた。
「え？」
「行こう」
「どこに？」
「……」
おにいちゃんが、私の傘をふっと取り上げて、歩き出した。
そっか。
傘に隠れよう。
そしたら、誰にも見つからないね。
凍えた指先を絡めて、歩く。
どこに行くの。
どこでもいいや。
このまま、ふたりでどこか、誰も知らないとこに行こう。
おにいちゃんが、電車に乗った。
どこにいくの？
降りたのは、おにいちゃんが一人暮らししてる町。
彼女と会うのが怖くて、結局おにいちゃんの住む町まで行くことすらできなかった。
電車で降りたのも初めて。
知らない町。
きょろきょろと周りを見渡してたら、おにいちゃんが、ちょっと笑った。
「挙動不審」
「知らない町ってなんか楽しい」
「そう？」
「見て、ちっちゃいポスト。かわいい。……ねえ、あの看板の猫は、……クマ？」
「……はは」
「この木は、桜？春には綺麗だねきっと」
「前から思ってたけど、お前と一緒に居ると、景色が変わるの、不思議」
「え？」
おにいちゃんがふふ、と笑った。
「こっち」
おにいちゃんが手をぐっと引っ張って、私を知らない世界に連れていく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4720人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
