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アルビコッカの控室のドアを開けると、そこには樹だけがいた。俺も樹も以前より早い時間にここに来るようになったから、今日はAちゃんが一番最後みたいだ。それ自体は偶にだけどこれまでもあったことなので、ここでは別に何も思わなかった。
一番最初に「あれ？」と思ったのは、数日ぶりに会った樹の機嫌が悪そうだったからだ。
「おはよう。ごめん、樹、昨日は迷惑かけて」
「まあ、体調崩すことくらい誰にだってあるだろ。それは気にすんな。元気になって良かったな、お前は」
ぱっと見はいつも通りの人懐っこい笑顔を浮かべている。だけど、長い付き合いだからなんとなく分かった。これは本心を隠してる時の樹の笑い方だ。
そうは感じたけれど、断言できるほどの確証はないから俺もいつも通りに樹に接した。
「慎太郎おはよう。もういいの？」
ちょっとしてから、きょもが控室にやってきた。
「大丈夫！むしろ前より元気かも！」
俺が答えるときょもが優しく笑った。その顔を見ると俺も嬉しくなる。
「そりゃ良かった。病み上がりて大変かもしれないけどさ、今日Aちゃん休みになったからがんばって」
「え……？」
だけど続くきょもの返しが予想だにしなかった内容で俺はしばしその場に固まった。
「熱出したんだとよ。お前といいAといいこの時期に珍しいな」
痛い所をついてきた言葉に思わず樹の方を向く。樹は呆れた半分の笑みを浮かべていた。だけど目が笑っていないようなそんな気がして。
「……っ、いや、その」
咄嗟に言い訳を探すけれどそんなものがある訳がない。
「まあそういうこともあるんじゃない？流行ってるのかもね」
狼狽えていた俺に助け舟を出したのはきょもだった。
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作者名：夕色 | 作成日時：2024年3月28日 18時
