キミがやさしい人だから 5 (ページ5)

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「……っ、」

声が出ない。身体が動かない。なのにそれが不快じゃなくて、むしろずっとこうしていたいような。

「Aちゃん、」

擦れた声で名前を呼ばれる。と同時に慎太郎君がこちらに身を乗り出した拍子に、元々近くにあった互いの手が触れ合う。その手を動かせないでいたら、私の手の上に慎太郎君の手が重ねられた。

「……！？」

びくりと肩が跳ね上がった。だけど振り払うことは出来なくて。

「俺、」

慎太郎君が何かを言いかけた丁度その時、聞き慣れた機械音は部屋に響き渡る。その瞬間、私達はまるで魔法が溶けたみたいにお互い顔を逸らした。

音の正体は枕元に置かれていた慎太郎君のスマートフォンで。誰かからメッセージが届いたみたいだった。いったい今何が起こったのか、理解がとうてい追いつかない。心臓が痛いくらいに大きく脈打っている。それとも今のは私の気のせいだったのだろうか？

「私そろそろおいとまするよ」

とてもじゃないけれど、この儘では身が持ちそうになくて私はそう切り出した。

「あ、そう、だよね」
「いいよ、そのまんまで」

私が立ち上がると慎太郎君も立ち上がろうとしたので慌てて止める。

「や、でも鍵かけるから」
「あ、そっか」

けれどそう言われてしまえば私は大人しく慎太郎君に玄関まで見送ってもらうしかなかった。

「本当ごめんね、こんな遅くに来てもらって」
「全然！困った時はお互い様だよ」

いつもの調子に戻って話す慎太郎君にすこしほっとして。

「本当は家まで送りたいくらいなんだけど」
「病気の人は大人しく寝てください」
「……一応家着いたら連絡貰ってもいい？その、心配だから」

思わず敬語になってしまった私の返しに悪戯っぽく笑った後、急に慎太郎君が真剣な顔になるからどうしたのかと思えば、そんな事を言った。

「うん、わかった」
「ありがとう」

短く答えると慎太郎くんがほっとしたような表情になる。

「それじゃあお大事にね。お邪魔しました」
「気をつけて帰ってね。今日はありがとう」

そうして今度こそ慎太郎君の家を後にした。

家までの夜道を歩いている間も家についてから眠りにつくまでもずっと、慎太郎君に触れられてた手が熱かった。