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「え？」
予想だにしなかった慎太郎君の言葉に私の思考が止まる。きっと今私は間抜けな顔をしているだろう。折角横になったのに慎太郎君が上半身を起こして、ベッドの脇に腰掛けている私と視線が近くなった。
「けっこう前に吹っ切れてるから。チアキのことは今はもう普通の友達として見てるよ」
戸惑う私に慎太郎君は苦笑混じりに続ける。
「そう、だったんだ」
私にとっては突然のことで、慎太郎君が口にした言葉の意味は勿論分かるけれどイマイチ実感が沸かない。
「うん。……Aちゃんのおかげだよ」
慎太郎がふわりと優しく笑ってそんなことをいうから余計に混乱してしまった。
「私、何かしたっけ」
「うん。いっぱいしてもらった」
決して強い口調ではない。でもはっきりと慎太郎君がそう言った。
「……っ、」
真っ直ぐに向けられた眼差しに体温が上がる。そんな風に言ってもらって"嬉しい"って気持ちふがどうしたって湧き上がるとと同時に、何かを勘違いしそうになって目を逸らしてしまった。慎太郎君がまっすぐで思いやりがある人なのを私は知っている。一に十で返してくれるような人なんだ。それは何も私に対してだけじゃない。
「話聞いただけだよ」
まだ慎太郎君への気持ちが芽生えてなかったあの頃を思い出す。むしろ慎太郎君に対する苦手意識の方が強くて、だけど切なげな表情を浮かべた慎太郎君をほっておけなかった。好きな人と友達の為に自分の気持ちに蓋をする、そんなやさしい慎太郎君がどういう形でもいいから報われて欲しいなってただ思った。あの頃は心からただそう思えたのに。
「そうかもしんないけど"だけ"じゃないよ」
熱の所為なのかいつもよりも輪郭のぼんやりとした、けれど変わらず甘い慎太郎君の声。いつの間にか心臓の音がすごい速さになっていた。
好きだって思う。やっぱり慎太郎君のことが好きだって思って胸がぎゅっとなった。
言葉にならなくて慎太郎君の様子を伺うように顔を向ければずっとこちらを見ていたのか慎太郎君と視線が交わる。いつもよりも熱を帯びた両眼が私を捕えた。
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作者名：夕色 | 作成日時：2024年3月28日 18時
