キミがやさしい人だから 5 (ページ12)

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思わず顔を樹の方に向ける。けれど樹は相変わらず前を見ていて俺の方に顔を向ける素振りすらなかった。俺がAちゃんに風邪を移した、と考えるのは状況的に最もで俺自身だってそう思っている。

「っ、それは……！考えなしだったなって反省してるよ」

自覚があるからこそ樹の指摘が胸にブスッと刺さった。ちょっと考えれば分かりそうなものなのに昨日はそれができなかった。ご飯を買ってもらうだけならまだしもやっぱりその後すぐに帰ってもらうべきだった。家にあがってもらった後だって、あんな不用意に風にAちゃんに触れるべきじゃなかった。そうすればAちゃんに風邪を移すこともなかったのかもしれない。

「べつに慎太郎とAが大学同じでバイトに誘うくらい仲良い"友達"なのは知ってるし？そもそも俺がどうこう言える立場じゃないのは解ってるけどさ」

ぐるぐると考えながら樹の言葉にも耳を傾ける。樹がAちゃんのことを気に入っているし気にかけていることは樹の態度からも日頃伝わってくることだった。昔、二人が付き合っていたことも、別に忘れた訳ではなかった。でも無意識の内に考えないようにしていた。多分それが自分にとって都合の悪い事実だったから。

「あんま俺の好きな女に迷惑かけないでくれる？彼奴お人好しだから頼まれるとだいたい断らないし」

だから俺は、世間話でもするような軽い口調で樹が告げた言葉に、ぴたりと足を止めた

「…………」

頭も身体も電源が切られたみたいに動かなくなった。少し先を歩いていた樹が気付いて同じように足を止めてこちらを振り返る。先ほどは合わなかった目が今度こそ合う。

「なに？どうかした？」

小首をかしげて少し笑って樹が尋ねる。そういう仕草も絵になる奴だった。男の俺でも憧れる所をいっぱい持っている奴で、見た目見よらず真面目だし面倒見もいい奴で、一緒にいて楽しい奴で、アルビコッカでバイトを始めてからずっと気が合う奴で。

「好きな、女って……Aちゃんのこと？」

尋ねる声は自分のものじゃないみたいに棒読みだった。