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Aちゃんに謝らなくちゃ、そう思ったけれどなんて送ればいいか思いつかず、結局何も送れないままあっという間に夜を迎えた。
元々一度に沢山の事を考えられる程器用じない。
朝に感じた樹からの値踏みするような視線は仕事が始まればなくなっていて、忙しさもあり夜の賄いを三人で食べる頃には頭の外においやっていた。
だからその時俺は馬鹿みたいにノーガードだった。
「で、昨日の夜、Aと会ったの？」
「へ……？どゆいみ？」
二人きりになった駅までの道で樹がおもむろにそう尋ねた。それまでの雑談の続きかのような軽い口調で。だけど、声の温度がほんのりと下がったのを本能的に感じた。
「どういう意味ってそのまんまの意味だけど？前に近いって聞いたし、慎太郎とAの家」
「いや、その、えっと」
「何困ってんの。そんな難しい質問してないじゃん。"はい"か"いいえ"で答えるだけだろ」
俺がおどおどしている間にも樹はつらつらと言葉を並べる。口調はやっぱりやさしい。
「そう、だけど」
「その『そう』返事は『Aと会った』に対して？それとも『"はい"か"いいえ"で答えるだけ』に対して？」
だけど鈍い俺にだって流石に解る。樹は今、怒っている。
「……両方。お見舞いっつーか、ご飯買ってきてもらった」
別に俺だって嘘を吐くつもりは最初からなかった。少し心の準備する時間が欲しかっただけで。だけど樹に急かすようにされて口を動かした。
「ふーん」
別に予想していたことなのだろう。樹は別段驚いた様子もなく相槌を打って、
「それでまんまとAに風邪移したんだ？」
冷ややかな声でそう続けた。
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作者名：夕色 | 作成日時：2024年3月28日 18時
