コイノウタ (ページ5)

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世の中はつねにもがもな渚こぐページ5

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「おはよ〜」

「おはようございます」

朝、劇場に入るとまだ静かな楽屋で河野が作業をしていた。

「河野、朝食べた？」

「あ、はい、一応」

「じゃあマリトッツォあげる」

「え？はいって言いませんでした？Aさんマリトッツォ好きなんすか？せっかくなんですけど、僕苦手なんで、」

「え〜アンチやん。アンチマリトッツォやん」

「ツイッター見てますやん！知ってるなら渡さんで下さいよ！」

「令和マリトッツォアンチマリトッツォ」

「ちょっとぉ！」

河野とマリトッツォ論争を繰り広げていると、続々と芸人がやってきて楽屋は賑やかになる。

「何を朝から言い合いしとん」

「盛山聞いて！私があげるって言ったのに断られた」

「はぁ？Aから貰えるなんて有り難いんやぞ！」

同期の盛山が来て、3人でワイワイ喋っていると

「わっ！何っ？！」

「A、じっとして」

「…リリーは私の彼氏じゃないよね？」

「俺は彼氏やと思っとる」

後ろから抱きついてくるリリー。

「あんたの相方どうにかならん？」

「残念やけどどうにもならん」

いつからだろう。

リリーが私にスキンシップを取るようになったり、彼氏がどうとか言うようになったの。

当たり前になりすぎて思い出せない。

最初は私も驚いたし、劇場内…というか芸人の間で「リリーとAが付き合っとる」って噂が立って、火を消すのが大変だった。

「何食べとるん？」

「マリトッツォ」

「え？なんて？」

「食べる？」

たまに横に座って喋ったり喋らなかったり、勝手に膝に頭乗せてきたり、髪を触ってきたりするリリー

マリトッツォを差し出すと、一口かじった。

「甘っ」

「リリーにはちょっと甘くてくどいかもね」

私に対するリリーみたいって思ったけど

「A食べたらこんな味ちゃうん？」

「やめろ」

案外、嫌いじゃない。

「いつになったら俺の彼女になるん？」

「ならんよ」

若い頃はリリーと付き合いたい、同期以上の関係になりたいって思った時期もあった。

けど

これより近くなりすぎたら…

多分私は、、私じゃいられなくなる。

日々変わっていく世の中だけど、リリーとはいつまでもこうやってくだらない会話をして笑っていたい。

私はこれ以上、望まないから

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