イルミナント

F98 #1 ページ17

好きな色はなんですか。

好きな花はなんですか。

好きな言葉はなんですか。



そのどれを聞かれても、俺は兄ちゃんと出会った後のものを答える。



それ以前の記憶なんて、どこかに飛ばしてしまいたい。
それでも記憶ってやつは強くこびりついてしまっているもので、そういえば母親はショッキングピンクが好きだったなとか、母の日には一度はカーネーションあげたなとか。



忘れたいのに、忘れられない。




「雄也。」

「ん？」

「みんな寝ちゃったから、ほら。」



風呂上がり、自分の座るソファの隣の席をぽんぽんと叩いた兄ちゃん。
それに誘われるように隣に座る。




「最近学校どう？」

「楽しいよ。」

「そっか。たまには甘えてくれていいんだよ。慧くん来てから少し遠慮してるでしょ？」

「兄ちゃん忙しいから……」

「俺はやりたくてやってるから、そんなとこで遠慮しなくていいんだよ。」



「じゃあ」って兄ちゃんの肩に頭を預ける。
うまく甘えられないけれど、これは甘えるうちに入るのかな？

少し骨ばった兄ちゃんの肩は俺の頭の定位置で、小さい頃は俺の手の定位置で。
いつもおんぶしてくれていたその背中に腕を回した。



「兄ちゃん。」

「ん？」

「いつもありがとう。」




次は兄ちゃんにカーネーションを贈ろう。

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