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砂の時計【青】 ページ18

…意外なことに、当時あれだけ嫉妬深かったヤスくんとの暮らしは、至極穏やかなものだった。


玄関先、私が仕事に出かけようとすると時折寂しそうに袖を引っ張ることはあるけれど



「…どうしたの? 寂しい?」


「ん…、やけど平気、僕も勉強せなやし」


私は通信制の大学のことを調べ

三年の終わりに大学を中退していた彼に
卒業資格を取るよう薦めたのだった。



「ん、頑張って」


「うん、いってらっしゃい」


私は彼の身体に腕を回しぽんぽんと背中を叩く

彼もまた私を送り出すようにぽんぽんと背中を叩く


…手を振る彼の姿が閉まっていくドアの隙間から見えた。



“やるべきこと”が明確にできた彼は殊の外 熱心な姿勢を見せ

夜には食事をしながらその日学んだことを嬉しそうに教えてくれることが多かった


少しずつ、確実に変わっていく彼


…止まっていた時間が流れていくのを

私は、砂時計を眺めるように感じている。



…大学に通っていた頃はあんなに授業をサボってばかりいたのにね。


そう言ってからかうと、


“今の僕やからわかることいっぱいあるねんなあ”と

きらきらとした目で言うから私はこっそりと泣く


…今の彼が
今の自分を肯定していることにたまらずに泣く。



「ヤスくん、そっち持ってー」


「うははぁ、お日様の匂いやなあ」


おやすみの日のお昼はベランダで布団を干して一緒に取り込む

バタンとそのまま二人して寝転んでお昼寝をする


ふと、目を覚ますと西陽の中、彼が私の顔をしみじみ覗き込んでいて


“…Aは年を取ったんやなぁ”


…発見したようにそんなことを言う。




「…老けたでしょ」


「はは、うん」



「…どう? 老けた私は」


「うん。ええなぁって思うとったよ」



ひとつずつ…


少しずつ、彼と私に流れる時間は近づいていくーー…




僕もええ加減切りたいなぁ


伸びっぱなしだった金色の髪に彼は自らざくざくとハサミを入れていく

後ろの方は私が代わりに切ってあげたりする


長い間彼の胸に光っていたネックレスは、ハンコと一緒に玄関の棚の中に仕舞われ

季節に合った色とりどりの服を一緒に洗濯機で回す



「おはよう」


「ん…おはよ」


朝には交代で淹れたコーヒーを飲んで



「おやすみ」


「ん、おやすみ」


夜には毎日手を繋いで眠り


…たまにじゃれ合うようにキスはしたけれど、彼が私を抱くことはなかった。

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しいたけ(プロフ) - 完結おめでとうございます。本当に大好きな作品です。どんな終わりを迎えるのか、終わることの恐さもありましたが、穏やかで温かな気持ちで読み終えまして、この作品に出会えた幸せを噛み締めました。ありがとうございます。お疲れ様でした! (2020年10月12日 19時) (レス) id: 6cdb312904 (このIDを非表示/違反報告)
みほ(プロフ) - 完結おめでとうございます!ずっと最終話を楽しみにしていました!たまごさんの文学のように作り込まれた世界観や表現が大好きです( ; ; )また1話から読み直そうと思います。お疲れ様でした! (2020年9月24日 10時) (レス) id: 31e8afe04b (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 完結おめでとうございます!これほどまでに壮大なスケールの夢小説に出会ったのは初めてでした。いくつもの糸が絡み合ったストーリー、どうやってエンディングを迎えるのか、ずっとドキドキしながら読んでました。今はしばらく余韻に浸っていたい気分です。 (2020年9月24日 1時) (レス) id: 64389dcac8 (このIDを非表示/違反報告)
やなこ。(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2020年9月23日 16時) (レス) id: 779424fc05 (このIDを非表示/違反報告)
みんと(プロフ) - たまごさん完結おめでとうございます。嬉しい反面読み進めるワクワクが無くなる寂しさも感じています。何度も何度も読み返したくなる大作だと思いました。これからもたまごさんの書く作品に期待しています。本当にお疲れ様でした。 (2020年9月23日 1時) (レス) id: f635eadff9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たまご | 作成日時:2020年6月4日 1時

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